2020年6月2日火曜日

ロボティスト

ロボティスト /新国際化時代(機械新聞)


省力化、自動化が労働力不足の決め手のように言われた昭和三十五年ごろから、筆者も仕事柄ロボットに打ち込んだ。大型ロボットの開発、日本ロボット工業会の設立などで、産官学との付き合いも多かった。その中で、友人の杉村治郎氏が昭和六十年九月、ロボットの雑誌を発行する運びとなり、私が「ロボティスト」と命名した。名付けの意図はロボットを考え、設計し、計算し、製作し、販売し、メンテをし、サービスし、楽しみ、遊んでくれるすべてのロボットに携わる人たちの総称としたかったからであった。

デジタルマイスター

日本は世界一のロボット大国で、生産台数、使用分野、輸出ともに群を抜いている。しかし高度な熟練を要する仕事のロボット化はいまだしだ。
通産省は「デジタルマイスター計画」を策定し、ベテラン、名工の勘と経験をデジタル化し、技能の伝承に役立てるという。軟鋼とステンレスの溶接では、スピードも肉の盛り方も違うし、塗装では初心者と熟練工ではペンキの使用量は五倍も異なるという。匠の技をデータ化して記録して、それを共有する「デジタル寺子屋」といえる。物づくりの基本はやはり人づくりなのである。

ロボタ

初めてチェコを訪問した時、カレル・チャペックの戯曲「ROBOTA(苦役)」を目にした。一九二〇年、このチェコ語からロボットは生まれたのである。七〇年代後半から、この産業用ロボットのお陰で多くの苦役から解放された。
そればかりではない。これまで溶接、塗装、組立など工場で機能を絞って使われた産業用から、あたかも生命や知能を備えたかのようなロボットが登場しつつある。

パーソナルロボット

ボールも蹴れば「パラパラ」も踊る。ロボット犬を売り出しているソニーが人間型ロボットを発表した。ホンダも一日早く人間型ロボットを披露し、期せずして戦後生まれの日本を代表する世界企業二社の世紀末の共演となった感である。
ソニーのペット犬代用といえる「AIBO(アイボ)」に次ぐ小型二足歩行エンターテインメントロボットは随分進歩した。先進二十四の関節自由度の制御で、歩行や、方向転換などの基本動作に、起き上がる、片足でバランスをとる、ダンス、ボール蹴りなど様々な応用動作が可能である。音声認識、画像認識機能により「回れ右」など二十の言葉を認識し返答するのである。
ロボットはパソコンより巨大な産業の可能性を秘め、ITとメカトロニクスが融合した総合芸術といえる。ロボットは無限に人間に近づき、バーチャルキャラクタ(仮想性格)を持ち、感情移入で人間を癒してくれる。ロボティストとして、来る新世紀は「ロボットとの共生社会」を予感するのである。









2012年10月29日月曜日

世界の街角で6 ウィーン 感動と潤いの「芸術の都」


ウィーンといえば、芸術の都、音楽の都、バロックの都、そして、森の都。何世紀もの間、ヨーロッパの政治、文化の中心であり、その栄光の歴史はハプスブルグ時代の建築物や、華麗な美術品からもうかがことができる。


「音楽の都」はモーツァルトづくし
ヨーロッパ大陸の中央に位置する永世中立国、オーストリアは古くから欧州の各都市を結ぶ交流点として栄えた。またその首都ウィーンは、東ヨーロッパのゲートウェイとしても重要な位置にある。
 今年はウィーンで活躍したモーツァルトの没後200周年にあたるとあって、モーツァルト記念切手、モーツァルトチョコ、モーツァルトリキュール、CD、カセット、レコード、ポスターと、街中モーツァルトづくめである。国際列車、観光船、音楽院に名前を冠するだけでなく、広場、橋、生家、墓、記念碑など枚挙にいとまがない。621曲を作曲し、36歳の若さで没した天才ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトは幸せ者である。

圧巻のブリューゲル
ウィーンの街には、壮麗な王宮、シェーンブルグ宮殿、ベルベデーレ宮殿などがあり、それぞれ宮廷馬車博物館、絵画館、バロック美術館、中世博物館などがその中にある。
 また国立オペラ座、楽友協会ホールなど音楽の都にふさわしい建造物も数多くある。
 その中でハプスブルグ家歴代の収集品を展示した、かつての宮廷美術館」の美術史館は見事である。ボッシュの「十字架を担うキリスト」、ルーベンスの「毛皮を被う夫人」、バンダイクの「夫人の肖像」、ベラスケスの「王女マルガリータ」、ラファエロの「草原の聖母子」、デューラーの「一万人の殉教」、その他レンブラント、ジョルジョーネなど7000点余りの絵画が、作者別に独立した部屋に展示されている。
 とりわけブリューゲルの「農民の婚宴」「バベルの塔」「農民の踊り」「雪の狩人」「ベツレヘムの幼児虐殺」など、その壮大なコレクションには圧倒され、まさに感銘の連続である。

ユーゲント・シュティール
美術家からの帰途、在ウィーン大使館の加治一等書記官に連れられ国立の絵画オークション(取引所)を訪れた。2,3点欲しい絵があったが、結構高いものであった。それにひきかえフローマルクト(のみの市)は、アンティークのコスチューム、絵画、家具などウィーン名物だけあって、一種の文化散策の場としても面白いところだった。
 世紀末の芸術アール・ヌーボーを、ドイツ語ではユーゲント・シュティールという.郵便貯金局、カールスプラッツ駅、マジョリカハウスなどオットー・ワーグナ設計の建物をまのあたりにした感動は別格である。
 文化の歴史と歴代権力者の収集の歴史はまるで違うとはいえ、日本にはない極めて高い質と、膨大な量の所蔵品や超弩級の目玉の作品を、館の売り物にできる西欧の博物館や美術館には、えもいわれぬ感銘と潤いを改めて覚えるのである。
北浦慎三
(大阪商工会議所異業種交流研究会コーディネータ)



2012年10月24日水曜日

グッド飲みニケーション


昭和62年(1987年)  12月5日 土曜日


 師走、忘年会シーズンである。最近の酒席につきものが、カラオケである。このカラオケセットが、全国に昨年四十七万台売れている。カラオケ産業も百七十億円市場となり、CD(コンパクト/・ディスク)LD(レーザーディスク)化とともにハイテク化、高級化し、日本人の感性にフィットして、“一億総カラオケ人口”である。
 カラオケ教室、カラオケ道場ができ、音感を高め、マイクの使い方がうまくなり度胸をつけるとともに、海外にまでカラオケバーは広がり、「日本人の行く所、カラオケあり」といえるほどである。マイナー(短調)な演歌に日本人の気質が象徴的に表れており、「カラオケ文化」とも言えるのである。

映像によるコミュニケーション
 科学万博をはじめ、最近の博覧会のパビリオンは映像メディア花ざかりである。イラスト一枚は活字四百字分の訴求力があり、モノクロ写真は文字の百倍、カラー写真は四百倍といわれている。マンガ世代の新人類の「活字離れ」が理解できるような気がする。
 一方、絵と図で伝達を早め、十五分間で情報をキャッチアップするレスポンスタイム(応答時間)の早さがビジネス社会では要求されている。工業生産に於ける熟練工は非熟練工の三倍の生産性といわれるが、知的生産力における熟練度は三十六倍である。この知的生産性はコミュニケーション(情報伝達)と、人間の能力そのものにかかわっているのである。アラブの諺に「百度の手紙より一度の握手、百度の握手より一度の食事」というのがある。人と人との出会いの情報密度は一番高く、一万倍ということになる。朝日ビールの樋口社長は重要指示事項は、電話、書面のみにとどまらず、必ず会って伝えるという。クライスラー社の「グッド コミュニケーション クイック レスポンス」、即ち「良く知って、良く知らせ、すぐやる」が大事なのである。

酒もファッション感覚で
 「酒は百薬の長」であり、「気狂い水」である。又「酒は飲んでも、飲まれるな」である。無理強い、一気飲みや、振舞い酒のガブ飲みなどはオールドファッションである。自前の酒をマイペースで、そしていろいろな酒と多彩な飲み方を試してみる。まさに酒も多様化、ファッション化時代である。

甘えと寛容の酒席
社員が忘年会を嫌がる理由に①上司に気を使う(無礼講でない)②カラオケを歌わされる(カラオケ公害、好きな人だけ歌えば)③悪酔いする人にからまれる④金がいる(たかが五千円位だが)⑤酒の無理強い(自己流で飲みたい)などがある。忘年会は一年のストレスの解消の場である。楽しいものにしたいものである。

 「芸は身を助ける」という、無芸大食より、普段にない自分の発見と、交流こそ大事寺る。酒にも、カラオケにもマナーがある。日本では昔から「酒の上の出来事」として、酒席での失敗に寛容で、又甘えもある。いい人間関係樹立のための「グッド 飲みニケーション」に乾杯。
北浦慎三