2011年8月8日月曜日

新入社員を迎えるにあたって

毎日新聞 1982年(昭和57年)3月1日(月曜日)

新入社員を迎えるにあたって

庭の梅が毎日蕾を二つずつ膨らませている。「梅一輪 一輪ほどの暖かさ」が実感として伝わってくる。いよいよ今年もあのブリリアントカラー(輝かしい新入社員のこと)が入ってくる。我が社でも百八人のリクルートの入社である。

石門心学に「形入(ぎょうにゅう)」という語がある。すなわち形から入る。まず形を整えることである。形式主義とは意味がちがう。古典芸能の能に伝わる「守、破、離」に示されているように、まず基本を守ることから始める必要がある。各社で行われる新入社員訓練もこの「初心忘るべからず」の原点から出発すべきである。

我が社では新入社員訓練の締めくくりとして、二泊三日の野外活動訓練を実施している。「同じ屋根の下で、同じ釜(かま)の飯を食い、同じ目的で語り合う」ことを三同効果と呼び、その全人格的教育と人間のふれ合いに大いなる意義を感じるからである。

一方フレッシュマンが入るたびに感ずるのは、中高年の、変に老化現象を起こし、ふけ込む姿である。老化度テストに①最近年齢の話をよくする②身体の不調を訴え、不平不満が多くなる③過去を美化して若かりしころの話をする④若者が信じられないのか話がくどくなる…の四点がある。反省させられる項目である。

二月の初旬、息子に促されて十年ぶりに友人とスキーに行った。少しは億劫(おっくう)であったが、滑るほどに勘がよみがえり、勇気が出て、若人に負けず「倒けつ転びつ(こけつまろびつ)」豪快に斜面を滑降できた。正に爽快(そうかい)であった。若者にまじって行動し、対話する中に、その気持ちが理解、納得でき、理論的にも感覚的にも同化し、精神的若さを感じたものである。

それには少しでも若いいでたちをする→それが若い行動力となり→若々しい頭脳、発想に結びつくのではないか。「頭脳のあらし」を呼び起こすことこそ、生活年齢、肉体年齢を超越した真の若さを保持する秘けつだと思う。

(慎三)

0 件のコメント:

コメントを投稿