2011年8月10日水曜日

「頭脳資源」を生かし先端技術開発を

毎日新聞 1982年(昭和57年)3月22日(月曜日)

「頭脳資源」を生かし先端技術開発を

いまだ雪深い自動車産業の根拠地デトロイトでロボット展が開かれた。私の会社も十数社の日本企業とともに出展している。そのうち七社はアメリカのGE、IBM、ウェスチングハウスなど十一社にOEMブランド(相手先企業名)でロボットを出品している。「パターン認識」などの先端技術が火花を散らしての日米売り込み合戦である。


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アメリカは広大である。気候も景気も考え方も地域によって大きく異なる。東海岸とカリフォルニア、五大湖付近と南部(サンベルト)と話題に花が咲くと、現地の商社支店長氏は「アメリカは二つの国があります。それは景気の良い国(オイルビジネス)と、景気の悪い国(カービジネス)ですよ」と笑い飛ばした。

不景気、インフレ、失業、社会不安、犯罪…。ニューヨークのホテルのロビーで筆者は不覚にも置き引きにあう。病めるアメリカの一面を身をもって体験する。

ハーバード大学の日本研究所にいた巳野保嘉氏は日米の経営比較に「大艦巨砲式海軍型のアメリカ、全員参加野球式陸軍型の日本」と評している。個人主義に対して集団思考、原理研究に対して応用開発、また有資源国で自給自足型の「海軍」に対して無資源国で常に補給を要する「陸軍」はまさに対照的といえる。

アメリカには革新的技術を追うベンチャービジネスが依然多い。これらの進取集団をバックアップする投資家集団がまた大変意欲的で、彼らを支えている。アメリカ経済の巻き返しは深く静かに始まっているのである。

日本人は総じて勤勉でよく働く。しかしアメリカ人の共稼ぎのファミリー単位ではそれ以上だし、特に経営管理層の働きぶりは合理主義に徹している。「日本人はダイナミックである。しかしアメリカ人はイノベーティブだ」の一般的評価があるが、無資源国日本にはかけがえのない「頭脳資源」がある。今こそ先端技術開発に注力し、日本の原理開発時代の春を呼ぶべきである。

(デトロイトにて慎三)

2011年8月8日月曜日

新入社員を迎えるにあたって

毎日新聞 1982年(昭和57年)3月1日(月曜日)

新入社員を迎えるにあたって

庭の梅が毎日蕾を二つずつ膨らませている。「梅一輪 一輪ほどの暖かさ」が実感として伝わってくる。いよいよ今年もあのブリリアントカラー(輝かしい新入社員のこと)が入ってくる。我が社でも百八人のリクルートの入社である。

石門心学に「形入(ぎょうにゅう)」という語がある。すなわち形から入る。まず形を整えることである。形式主義とは意味がちがう。古典芸能の能に伝わる「守、破、離」に示されているように、まず基本を守ることから始める必要がある。各社で行われる新入社員訓練もこの「初心忘るべからず」の原点から出発すべきである。

我が社では新入社員訓練の締めくくりとして、二泊三日の野外活動訓練を実施している。「同じ屋根の下で、同じ釜(かま)の飯を食い、同じ目的で語り合う」ことを三同効果と呼び、その全人格的教育と人間のふれ合いに大いなる意義を感じるからである。

一方フレッシュマンが入るたびに感ずるのは、中高年の、変に老化現象を起こし、ふけ込む姿である。老化度テストに①最近年齢の話をよくする②身体の不調を訴え、不平不満が多くなる③過去を美化して若かりしころの話をする④若者が信じられないのか話がくどくなる…の四点がある。反省させられる項目である。

二月の初旬、息子に促されて十年ぶりに友人とスキーに行った。少しは億劫(おっくう)であったが、滑るほどに勘がよみがえり、勇気が出て、若人に負けず「倒けつ転びつ(こけつまろびつ)」豪快に斜面を滑降できた。正に爽快(そうかい)であった。若者にまじって行動し、対話する中に、その気持ちが理解、納得でき、理論的にも感覚的にも同化し、精神的若さを感じたものである。

それには少しでも若いいでたちをする→それが若い行動力となり→若々しい頭脳、発想に結びつくのではないか。「頭脳のあらし」を呼び起こすことこそ、生活年齢、肉体年齢を超越した真の若さを保持する秘けつだと思う。

(慎三)

互いにもっと…言葉を交わそう

毎日新聞 1982年(昭和57年)2月1日(月曜日)

互いにもっと…言葉を交わそう

「大寒」。吐く息もいてつきそうな今日このごろである。他民族、他言語の入り乱れる諸外国に比し、単一民族、単一言語の日本人社会では言語、習慣の違いから来るトラブルはほとんどなく、「以心伝心」で思っている事が伝わり、「阿呍(あうん)の呼吸で」で気持ちが通じ合い。「腹芸」で説明がなくても理解が出来るグッド・コミュニケーションの社会だといわれた。

ところが、ゼネレーションギャップというのか、最近では職場のタテ社会の中で意思の疎通を欠くことが多い。それというのも日本語のもつ複雑性、曖昧(あいまい)性、また、敬語(尊敬語、謙譲語)のむづかしさ、ニュアンスなどから来るものと思われる。特に大阪弁の相手(お客)を傷つけないための商人言葉、例えば「適当に…」「それなりに…」など、理解に苦しむ言葉も多いと思う。

それだけに、フィーリング世代の若者にもっと言葉をかける必要があるのではないか。「巧言令色鮮矣仁(こうげんれいしょく、すくなしじん)」と中国の言葉にあるが、今では逆ではないか、内面的なものを大いに表現し、言葉という媒体を通してともに語り合い、ともに働きの実をあげる必要があると思う


「お愛想も仕事のうち」である。あいさつがどれだけ職場の潤滑油になっているか。だれにでも、どこでも会釈を交わし、上下の関係なくどちらからもあいさつを送るべきである。こうした人間関係の中に心も通じ合うものである。

「幸せなら態度で示そうよ…」の歌の文句じゃないが、態度と言葉で示さないことには理解し合えない次代になって来ているのではなかろうか。

「今の若いものは外国人みたいだ」と慨嘆した経営者がいたが、それほど疎外感と隔絶感に苛(さいな)まされる言葉はない。

間もなくリクルート(新入社員)が今年も入って来る。職場への適応性と赴任当初の淋(さび)しさに対して「温かい言葉」こそが真の潤滑油と言えるのである。

(慎三)