毎日新聞 1982年(昭和57年)3月22日(月曜日)
「頭脳資源」を生かし先端技術開発を
いまだ雪深い自動車産業の根拠地デトロイトでロボット展が開かれた。私の会社も十数社の日本企業とともに出展している。そのうち七社はアメリカのGE、IBM、ウェスチングハウスなど十一社にOEMブランド(相手先企業名)でロボットを出品している。「パターン認識」などの先端技術が火花を散らしての日米売り込み合戦である。
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アメリカは広大である。気候も景気も考え方も地域によって大きく異なる。東海岸とカリフォルニア、五大湖付近と南部(サンベルト)と話題に花が咲くと、現地の商社支店長氏は「アメリカは二つの国があります。それは景気の良い国(オイルビジネス)と、景気の悪い国(カービジネス)ですよ」と笑い飛ばした。
不景気、インフレ、失業、社会不安、犯罪…。ニューヨークのホテルのロビーで筆者は不覚にも置き引きにあう。病めるアメリカの一面を身をもって体験する。
ハーバード大学の日本研究所にいた巳野保嘉氏は日米の経営比較に「大艦巨砲式海軍型のアメリカ、全員参加野球式陸軍型の日本」と評している。個人主義に対して集団思考、原理研究に対して応用開発、また有資源国で自給自足型の「海軍」に対して無資源国で常に補給を要する「陸軍」はまさに対照的といえる。
アメリカには革新的技術を追うベンチャービジネスが依然多い。これらの進取集団をバックアップする投資家集団がまた大変意欲的で、彼らを支えている。アメリカ経済の巻き返しは深く静かに始まっているのである。
日本人は総じて勤勉でよく働く。しかしアメリカ人の共稼ぎのファミリー単位ではそれ以上だし、特に経営管理層の働きぶりは合理主義に徹している。「日本人はダイナミックである。しかしアメリカ人はイノベーティブだ」の一般的評価があるが、無資源国日本にはかけがえのない「頭脳資源」がある。今こそ先端技術開発に注力し、日本の原理開発時代の春を呼ぶべきである。
(デトロイトにて慎三)
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