2012年9月10日月曜日

ハイテクのハイ利用で廃テク防止


昭和62年(1987年) 6月5日 金曜日


 国際経済摩擦の激化に伴って、わが国の企業は国際協調型への構造変換を強く求められている。激しい環境変化に対応して、企業規模の大小にかかわらず、自らの進路を点検、新たな起動を敷設する必要に迫られているわけで、とくにNICSの追い上げなどもあって、中小企業での緊急度は強いといえる。

陳腐化速いハイテク
 ハイテク時代の特長は①変化のテンポが速い②原理、方法が変わる③無関係の分野もまきこまれる④失うもの、得るもの両方がある-といわれている。特に半導体では、超LSIは二十年前の真空管の十万倍の信頼性、それに反比例して大きさは十万分の一、価格も十万分の一である。「五年経てばクギと同じ値段」といわれるゆえんである。また、指数関数的向上をしているVLSI(半導体集積回路)はその性能や集積度が、大体二年おきに倍増している。新製品の陳腐化速度はすさまじい勢いで、「廃テク商品」化しているのである。

ハイテク御三家の利用
 ハイテクの注目株は、マイクロエレクトロニクス(ME)、新素材、バイオテクノロジーで「ハイテク御三家」とさえいわれる、しかし世間でさわがれるほど成長性、採算性は良くない。MEの代表格の産業用ロボットも、昨年二千七百億円で、みそ産業の三千億円に及ばない。みそもロボットも一緒にする訳ではないが、IC産業の一兆七千億円はきもの産業の二兆円より少なく、新素材の七千億円は食パン産業の八千億円には満たない。しかしハイテクを利用し、自社の製品やプロセスに取りこむ「ハイテク化商品」、特に電子デバイスを組みこんだメカトロニクスの市場規模は二十五兆円で、今後も成長を約束される市場である。
 
組み合わせ技術と使う技術
 古くは消しゴム付き鉛筆から「ラジカセ」「バルセットシリンダ」(切換バルブをつけたアクチュエータ))など組合せ商品は枚挙にいとまがない。「元気の出る針金」と、マスコミをわかせた「形状記憶合金」も二十五度以上になると、記憶したふっくらとした胸元を再現するブラジャーで、下着に革新をもたらし、二百万着を売るヒット商品となった。ハイテクを「作る技術」よりも「使う技術」、即ちソフトウェアこそが、中小企業にとって有効に作用するのである。

単体生産からシステム化へ
 私はかねがね「付加価値生産性は部品点数に比例する」といっている。同じアルミ製品でも、サッシの生産より航空機が有利に決まっている。これから水平的国際協業時代に突入すると、部品点数五千点以上のミシン、トランジスタラジオなどは中進国へ移し、日本はもっぱら五千点以上のカラーテレビ、VTR、三万点以上の自動車、なかんずく五万点以上の中・高級車を生産することに専念せざるをえないのである。また、単品即ちコンポーネント・マシンを作るステップから、ソフト、ノウハウなどの知的付加価値を装備した、大型コンピュータ(二十万点)、人工衛星(五百万点)などの高次なシステム商品へとシフトする必要を痛感するのである。
北浦慎三

2012年9月7日金曜日

ストレス社会こそ「ゆとりの構造」


昭和62年(1987年) 5月5日 火曜日



 春のゴールデンウィークの連休明けである。陽焼けした若者たちの歓声があちらこちで聞こえる。

小型、こま切れ的レジャー
 余暇開発センターの「レジャー白書」によれば、男性の場合、今後やってみたい余暇活動の第一位は避暑、避寒、温泉などの国内観光で、七三%。第二位がドライブ五四%、第三位外食五〇%、第四位海外旅行四八%、である。しかし「時間的余裕がない」(四〇%)や「経済的余裕がない」(二五%)で、宿泊観光旅行に行けなかった理由としている。
 中小企業の福利厚生施策の中で、断然人気の高いのが、この旅行で、他のレジャーを圧倒している。ところで、日本人のレジャー活動は小型、こま切れ的で、多彩と言えるが、欧米に比して、日常的、都会的である。観光レジャーにも共通しており、最近はゴルフ、テニス、スキー客が増えているが、遊びそのものに余裕がなさすぎる感がある。

余暇にも生産性?
 働きバチ、ワーカーホリック(仕事中毒)と海外から日本のビジネスマンは避難されながらも、ゴールデンウィーク、夏休み、正月はまさに“民族大移動”の旅行の集中するシーズンである。欧米では長期休暇は常識化している。バケーション、即ち頭をベーカント(空っぽ)にして、短くて一週間、長くなると一ヶ月滞在の、滞在型リゾートが定着している。交替で休暇を取ることを法制化している国さえある。日本では人が働いている時に、自分だけ休暇をとること罪悪視し、レジャーを浪費ときめつけ、上司、同僚、部下に気を配りながら、遠慮して休暇を取らないのである。総じて「レジャー下手」「遊び下手」である。民族性の違いとはいえ、明日の英気を養うという点では、レジャーにも生産性があるといえるのではなかろうか。

ストレス社会 心はプアー
 全民労協の調査では、毎日の仕事の中で、「精神的にきつい」「運動、レクリエーションのゆとりがない」につづいて「人間関係からくるストレス」をあげている。体をあまり動かさず、頭だけを使うことが多く、そのうえ、食べ物豊富で、過食。成人病の増加が問題である。自覚症状がありながら、責任感と「出世の妨げ」と、自ら病気をひた隠しにして、無理をし、結果として、会社に迷惑をかけることに相成るのである。
 仕事不安(失業や職場への不適応)、家庭不安(子供の非行や進学難)、地域不安(近所に知らない人が増える)、健康不安など基本的な不安は各世代でかなり共通しているが、二十代は仲間集団内の人間関係に生き甲斐を求めながらも、人間関係の不安で苦慮しているのが目立つのである。ハードウェア即ち機械、設備たいかに立派でも、それを運転するソフト即ち管理、運営が貧弱ではダメである。そんな状態を「ハードリッチ ソフトプアー」と呼んでいる。「物はリッチでもストレス社会で、心はプアー」という感を深くするのである。そんな激変環境にこそ、余暇を見出す「ゆとりの構造」が余計に必要と思われる。
北浦慎三

2012年9月6日木曜日

モノ、人ともに”心の国際化”

昭和62年(1987年) 4月5日 日曜日

 昨年正月アメリカのミネアポリスからDATA CONTROL社の役員の娘さん、という二十歳の女子大生が我が家にやって来た。息子ばかり三人の中に降って涌いたような「ホームステイ」の国際化家庭版の一ヶ月であった。私に「夜遅く帰宅し、東奔西走の毎日は、うちのパパと一緒だ」と笑いこけていた。


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 中小企業の”人材輸出”
 今年早々、かって仲人をした、ある中小企業に勤務する四十五歳の工場の係長が、退職の挨拶にやって来た。ホンコンのプラスチック会社の役員として、三年契約で新天地に赴任するという。幸い中小企業診断士の資格を早くから取得しており、百万円の手取り月収、家つき、車つき、月一度の日本への出張つき、という恵まれた条件である。単なる製品にまつわる固有技術だけでなく、生産技術、管理技術のテクノロジートランスファ(技術移転)は、NICS(新興工業諸国)に対して、一匹狼の力とはいえ、"人材輸出"の懸橋といえるのではなかろうか。

日本的経営の理解
 中国、インドネシア、マレーシア、フィリピン、スリランカ、ネパール、メキシコ、ペルー、ケニアなどから、今年も三月上旬、国際協力事業団の一行十二名が「中小企業研修団」として我が社にやって来た。これは我が社の技術協力計画にもとづき、約三ヶ月間各地で研修するものである。工場見学の後、数時間のディスカッションをした。日本的な経営のバックグラウンドである、義理、人情、稟議書、根回し、行政指導、提案、改善、腹芸など多様な価値観はなかなか理解しにくいものであった。一方、職場の身近なラジオ体操、朝礼、給食、制服のように、集団主義、無層社会の象徴的行動は良く理解できたようである。
 特に「日本の中小企業経営の特長」として欧米のレイオフ(一時解雇)制度に対して、安定雇用性(終身雇用制ではない)、実力主義を加味した年功序列制、職種別労組に対して、企業別労組など要約して説明した。

日本企業の国際化
 このように家庭でも職場でも外国人との接触は多くなって来た。昨年の日本からの海外渡航者は約五百万人である。又、企業の海外進出に伴う「長期滞在者」は約二十四万人にのぼっている。経済力の発展に伴って、モノだけでなく、人の面でも国際化の時代を迎えている。

日本企業の国際化進展の段階は①輸出中心(モノ)②現地化(モノ+カネ)③国際化(モノ・カネ+ヒト)④多国籍化(モノ・カネ+ヒト+情報)⑤グローバル化(モノ・カネ・ヒト・情報+企業分化)だといわれている。
 これからの日本企業は中小企業といえども、海外進出にあたって経営理念や企業文化を完全に自分のものにしたうえで、現地に受け入れられる内容に翻訳し、現地社会の人々とコミュニケートできる真の国際人の育成が重要である。”郷に入れば郷に従え”である。異国に骨を埋める覚悟で、異文化を素直に理解できるような教育、情報の提供を通じて、モノ、ヒトと同時に”心の国際化”の時代を築き上げるべきである。
北浦慎三