昭和62年(1987年) 4月5日 日曜日
昨年正月アメリカのミネアポリスからDATA CONTROL社の役員の娘さん、という二十歳の女子大生が我が家にやって来た。息子ばかり三人の中に降って涌いたような「ホームステイ」の国際化家庭版の一ヶ月であった。私に「夜遅く帰宅し、東奔西走の毎日は、うちのパパと一緒だ」と笑いこけていた。
中小企業の”人材輸出”
今年早々、かって仲人をした、ある中小企業に勤務する四十五歳の工場の係長が、退職の挨拶にやって来た。ホンコンのプラスチック会社の役員として、三年契約で新天地に赴任するという。幸い中小企業診断士の資格を早くから取得しており、百万円の手取り月収、家つき、車つき、月一度の日本への出張つき、という恵まれた条件である。単なる製品にまつわる固有技術だけでなく、生産技術、管理技術のテクノロジートランスファ(技術移転)は、NICS(新興工業諸国)に対して、一匹狼の力とはいえ、"人材輸出"の懸橋といえるのではなかろうか。
日本的経営の理解
中国、インドネシア、マレーシア、フィリピン、スリランカ、ネパール、メキシコ、ペルー、ケニアなどから、今年も三月上旬、国際協力事業団の一行十二名が「中小企業研修団」として我が社にやって来た。これは我が社の技術協力計画にもとづき、約三ヶ月間各地で研修するものである。工場見学の後、数時間のディスカッションをした。日本的な経営のバックグラウンドである、義理、人情、稟議書、根回し、行政指導、提案、改善、腹芸など多様な価値観はなかなか理解しにくいものであった。一方、職場の身近なラジオ体操、朝礼、給食、制服のように、集団主義、無層社会の象徴的行動は良く理解できたようである。
特に「日本の中小企業経営の特長」として欧米のレイオフ(一時解雇)制度に対して、安定雇用性(終身雇用制ではない)、実力主義を加味した年功序列制、職種別労組に対して、企業別労組など要約して説明した。
日本企業の国際化
このように家庭でも職場でも外国人との接触は多くなって来た。昨年の日本からの海外渡航者は約五百万人である。又、企業の海外進出に伴う「長期滞在者」は約二十四万人にのぼっている。経済力の発展に伴って、モノだけでなく、人の面でも国際化の時代を迎えている。
日本企業の国際化進展の段階は①輸出中心(モノ)②現地化(モノ+カネ)③国際化(モノ・カネ+ヒト)④多国籍化(モノ・カネ+ヒト+情報)⑤グローバル化(モノ・カネ・ヒト・情報+企業分化)だといわれている。
これからの日本企業は中小企業といえども、海外進出にあたって経営理念や企業文化を完全に自分のものにしたうえで、現地に受け入れられる内容に翻訳し、現地社会の人々とコミュニケートできる真の国際人の育成が重要である。”郷に入れば郷に従え”である。異国に骨を埋める覚悟で、異文化を素直に理解できるような教育、情報の提供を通じて、モノ、ヒトと同時に”心の国際化”の時代を築き上げるべきである。
北浦慎三
0 件のコメント:
コメントを投稿