昭和62年(1987年) 6月5日 金曜日
国際経済摩擦の激化に伴って、わが国の企業は国際協調型への構造変換を強く求められている。激しい環境変化に対応して、企業規模の大小にかかわらず、自らの進路を点検、新たな起動を敷設する必要に迫られているわけで、とくにNICSの追い上げなどもあって、中小企業での緊急度は強いといえる。
陳腐化速いハイテク
ハイテク時代の特長は①変化のテンポが速い②原理、方法が変わる③無関係の分野もまきこまれる④失うもの、得るもの両方がある-といわれている。特に半導体では、超LSIは二十年前の真空管の十万倍の信頼性、それに反比例して大きさは十万分の一、価格も十万分の一である。「五年経てばクギと同じ値段」といわれるゆえんである。また、指数関数的向上をしているVLSI(半導体集積回路)はその性能や集積度が、大体二年おきに倍増している。新製品の陳腐化速度はすさまじい勢いで、「廃テク商品」化しているのである。
ハイテク御三家の利用
ハイテクの注目株は、マイクロエレクトロニクス(ME)、新素材、バイオテクノロジーで「ハイテク御三家」とさえいわれる、しかし世間でさわがれるほど成長性、採算性は良くない。MEの代表格の産業用ロボットも、昨年二千七百億円で、みそ産業の三千億円に及ばない。みそもロボットも一緒にする訳ではないが、IC産業の一兆七千億円はきもの産業の二兆円より少なく、新素材の七千億円は食パン産業の八千億円には満たない。しかしハイテクを利用し、自社の製品やプロセスに取りこむ「ハイテク化商品」、特に電子デバイスを組みこんだメカトロニクスの市場規模は二十五兆円で、今後も成長を約束される市場である。
組み合わせ技術と使う技術
古くは消しゴム付き鉛筆から「ラジカセ」「バルセットシリンダ」(切換バルブをつけたアクチュエータ))など組合せ商品は枚挙にいとまがない。「元気の出る針金」と、マスコミをわかせた「形状記憶合金」も二十五度以上になると、記憶したふっくらとした胸元を再現するブラジャーで、下着に革新をもたらし、二百万着を売るヒット商品となった。ハイテクを「作る技術」よりも「使う技術」、即ちソフトウェアこそが、中小企業にとって有効に作用するのである。
単体生産からシステム化へ
私はかねがね「付加価値生産性は部品点数に比例する」といっている。同じアルミ製品でも、サッシの生産より航空機が有利に決まっている。これから水平的国際協業時代に突入すると、部品点数五千点以上のミシン、トランジスタラジオなどは中進国へ移し、日本はもっぱら五千点以上のカラーテレビ、VTR、三万点以上の自動車、なかんずく五万点以上の中・高級車を生産することに専念せざるをえないのである。また、単品即ちコンポーネント・マシンを作るステップから、ソフト、ノウハウなどの知的付加価値を装備した、大型コンピュータ(二十万点)、人工衛星(五百万点)などの高次なシステム商品へとシフトする必要を痛感するのである。
北浦慎三
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