2012年9月13日木曜日

世界の街角で2 ヨーク “道路は厳粛なキャンバス”


英国の秋は紅葉で美しい、オータム・カラードといわれ、真っ赤に色づく蔦の葉は特に鮮明である。



■中世の城壁都市
日本を出発する時に買った英国国鉄一等席四日間フリー切符で、スコットランドのエディンバラから南下し、ダービーへ向かった。ふと15年前に立寄ったヨークの素晴らしい情景が思い出され、途中下車し、数時間歴史の町を散歩した。
 ヨーク(YORK)は紀元71年にローマ人に発見され、アングロサクソン人、バイキングに受け継がれ、急速に発展し、ロンドンに次ぐ第二の都市、そして宗教の北の中心地となった。中世の城塞都市がそのまま残るヨークは、町そのものが生きた博物館。城編(CITY WALL)の延長は約5キロで、周遊するには格好のプロムナードである。

■色濃い宗教画
 街中の通りは迷路のように入り組んでおり、ブティック、ブランドショップ、レストラン、パブが所狭しと並びたち、ヨーク大寺院(YORK MINSTER)の門前町の体をなしている。1220年から1470年にかけ250年の付き日を費やして建築された英国最大のゴシック建築の大寺院は繊細かつ威容を誇っている。
 ヨーク大寺院に通じるゲート(通りのことをGATEと呼ぶ習慣が残っている)で若い画家が絵筆を振っているのに出会った。きれいにはき清めた石畳に直書きで油絵を画いている。マリアとエンジェルを題材とした聖書物語である。手もとの写真をもとに精密で丹念に描きつづけている。
 彼は多分朝から画き出し、夕方ようやく完成し、道ゆく人々に賞賛され、又感銘を与えているのである。

■達成のよろこび
一日で画き上げ、そしていずれ数日後には雑踏の中で踏み消されてしまう運命である。小学生に宗教画を説明したり、色んな質問に応じたりしている。中には小銭を箱に投げ入れて行く者もいる。賽銭箱もちゃんと中央に置いている。画かき本人は多くの大衆の評価を得て自己満足し、制作プロセスでは自己陶酔しているかもしれない。
 絵を画くことに集中し、消え去る絵ではあるが、描き上げた達成、完成の喜び。その一瞬に生きる若き無名のアーティストにとっては、道路もしばし厳粛なキャンパスである。

■伝統と革新
 日本と英国は共に立憲君主国で又島国である。嗜好性も小型を好み、自動車も右ハンドルで、左側通行、そして伝統を重んずる国と共通点は多い。
 又、日本の男性は英国紳士のブランドにあやかり、洋服はバーバリー、アクアスキュータム、ネクタイはダンヒル、カフスはウェッジウッド、陶器はロイヤルダルトン、紅茶はフォートナム&メイソンと現(うつつ)を抜かしている。
 しかしかっての英国病はインフレ、失業、ストと斜陽を象徴していた。今、日本企業138社の進出、日本人4万人。産業革命発祥の地に、「新しい製法と新しい労使関係と新しい経営システムを持ち込んだ」と喜ばれているのである。

大阪商工会議所 異業種交流研究会
コーディネーター 北浦慎三



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2012年9月11日火曜日

擬似品質差ネーミングで演出


昭和62年(1987年) 7月5日 日曜日

 うっとおしい梅雨明けも近い、五月下旬から七月中旬まで、「梅雨の前ぶれ」「走り梅雨」、そして「梅雨寒む」など、乾季に対する雨期の言葉である。春夏秋冬の四季に「梅雨季」を入れて、「五季」とすると、人間の体の一年からすれば、健康留意のためのこの新語の
語気はさわやかである。言葉は生き物である。特に商品のネーミングはそのイメージを決定ずけるものである。

面白いから買う
 「自動製パン器」が成熟した調理家電市場で、自動炊飯器以来の話題商品になっている。先発の松下は「自動ホームベーカリー」、船井電機は「らくらくパンだ」。つづいて参入する東芝は「パンDEおはよう」、日立は「焼きたて通り」、三洋は「1・2のパン」と、手軽で親しみを感じるネーミングで乗り込む。各社は勿論、品質、性能、価格で他社にない差別化戦略で臨んでいるのだが、究極、余程の特許などの技術的格差でもない限り、自動車、家電などの先発商品群に見られるように、似たりよったりになってしまうのである。あとは消費者の感性、購買動機にどうアピールするかでる。面白いから、楽しいから買う心理動向を見逃せないのである。

新製品はマイナーチェンジの繰り返し
 自動車メーカー十一社で毎日三千種の商品を出している。一種類たったの十台しか同じものを製造していないのである。勿論、車体の色、オプションは別である。世界に於ける最も大量生産を誇る自動車産業でも、この様な個性化、多様化時代に合わせた市場の絞り込みと、その市場に最もアピールする差別化機能の付加に注力しているのである。今世紀の初頭以来、自動車は四気筒のレシプロエンジンに、四輪、ハンドル、ブレーキと基本的機能は不変である。しかし電子化率、プラスチック化率をはじめ。高速安定性能、居住性など著しく向上した。一方「カペラ」と「テルスター」、「ガゼール」と「シルビア」などのように、全く同じ車をネーミングを変え異なった販売チャネルに流すことによって成果を上げている。まさに擬似品質差をネーミングの差別化戦略で補っているように思えるのである。

ひと味違った商品を表現
 使い捨てカメラ「うつるんです」砂糖の「ひかえめさん」「気配館-気くばり館」(藤沢の飲料)のようなおとなしいが、「名は体を表す」ものから、「クィントリックス」「ウォークマン」「ファミコン」のようにヒット商品となり、一世を風靡(ふうび)した愛称もある。佃煮の「ごはんですよ」は全国のお母さんが毎日三回は口にするからたまらない。この桃屋の年四千万個、八十億円の売上げはネーミングのおかげである。「言いよい、聞きよい、書きよい、見よい、憶えよい」商標の五原則である。商品のライフサイクルは短命になって来たし、新技術の陳腐化速度は速い。性能、デザインなどが、商品の売行きを左右するのはいうまでもないが、いかに印象づけるネーミングをつけるかは、CI(企業イメージの統一)と共に欠かせない要素である。量から質の時代から、味の時代(ひと味ちがった商品、いいイメージ、感性の商品という意味)といえるのである。

北浦慎三

2012年9月10日月曜日

世界の街角で1 「カレル橋の画家」

チェコスロバキア共和国といえば、自動車のシュコダ(Skoda)、プルゼニュ(Plzen)のビール、ボヘミアのガラス器が知られている。又、作曲家のドボルザークやスメタナを生んだ音楽の国である。初めて訪れた首都プラハは中部ヨーロッパ最古の都市の一つであり、九世紀から分化の中心地であった。現在も市の中心部には、十一~十三世紀のロマネスク建築、十三~十五世紀のゴシック建築、十六世紀のルネサンス建築とあらゆる建築の見本が見られ、建築芸術の博物館といえるような町で、市内には五百以上の尖塔が見られる。

又、美術では世界で有名なプラハ国立美術館があり、フランス美術部では、ルソー、マネ、モネ、ゴッホ、セザンヌ、ピサロ、ピカソ、ブラック、シャガールの力作があり、西欧古美術収集部ではブルーゲル、デューラー、レンブラント、ルーベンス、ゴヤなど著名な作品が目をひく。

“中世の宝石”と言われ、中世以来のたたずまいを今日に残しているプラハには画家たちの群がるカレル橋(Karluv most)という美しい有名な橋がある。ブルタバ川(モルダウ川)に架かる五百米の石橋は中欧で最古のもので、一三五七年教会建築家ペトル・パルレージの作品である。橋の両端にはゴシック様式の門がつき、橋の両側の欄干には、聖書に題材を求めた彫刻が十五体ずつ、計三十体飾られている。夕陽にシルエットとなって浮かび上がる景色はプラハで最も美しいパノラマである。

春の陽射しをあび、旧市外とプラハ城を行き来する通行人は絶えることなく、カレル橋は常に賑わっている。油絵、水彩画、似顔絵、ハサミによる影絵と、画家達が何十人と製作を楽しんでいる。カレル橋の聖者像を一通り鑑賞した私も、つい好きな絵に見入っていた。私が「今かいている聖者は何というの」“聖ルイトガルダと聖アダルベルトさ”「よく描けている…ハウマッチ」“日本円で三万円”・ポケットからお札を取り出し、「一万円しか持ち合わせていない、これでどうだ……」“NO”ネゴは失敗である。「仕方ない散歩して来るよ。」橋上では何組かのバンドが色んな音楽を奏でている、それに耳を傾けながらカレル橋を前景にプラハ城を眺めていると、カレル橋を舞台にした大ページェントである。

一巡して再び画家の前を通ると、“描き上げたよ、完成だ。遠い日本から来たんだね…一万円でOKだ…”交渉成立である。画家の名はクリスト・ゲルゴフ(CHRISTO GERGOV)個展用の自画像ポスターもくれた。横にいた弟子のユーゴー人が“彼は新進作家で有名な画家だ”といいながら、未だ濡れているキャンパスを段ボールで絵具がつかないようにパッケージしてくれた。力づよいタッチの風景画を手にし、満たされた一刻であった。

東欧の社会主義は音を立てて崩壊した。バーツラフ広場の国民博物館の前を通りかかると、折から東京の「わだち合唱団」とチェコの「CKD合唱団」の共演で「春のうららの隅田川…」が流れて来た、まさに新鮮な驚きである。長い圧制下のプラハにほんとの春がやって来たのである。

大阪商工会議所 異業種交流研究会
コーディネーター 北浦 慎三











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