昭和62年(1987年) 7月5日 日曜日
うっとおしい梅雨明けも近い、五月下旬から七月中旬まで、「梅雨の前ぶれ」「走り梅雨」、そして「梅雨寒む」など、乾季に対する雨期の言葉である。春夏秋冬の四季に「梅雨季」を入れて、「五季」とすると、人間の体の一年からすれば、健康留意のためのこの新語の
語気はさわやかである。言葉は生き物である。特に商品のネーミングはそのイメージを決定ずけるものである。
面白いから買う
「自動製パン器」が成熟した調理家電市場で、自動炊飯器以来の話題商品になっている。先発の松下は「自動ホームベーカリー」、船井電機は「らくらくパンだ」。つづいて参入する東芝は「パンDEおはよう」、日立は「焼きたて通り」、三洋は「1・2のパン」と、手軽で親しみを感じるネーミングで乗り込む。各社は勿論、品質、性能、価格で他社にない差別化戦略で臨んでいるのだが、究極、余程の特許などの技術的格差でもない限り、自動車、家電などの先発商品群に見られるように、似たりよったりになってしまうのである。あとは消費者の感性、購買動機にどうアピールするかでる。面白いから、楽しいから買う心理動向を見逃せないのである。
新製品はマイナーチェンジの繰り返し
自動車メーカー十一社で毎日三千種の商品を出している。一種類たったの十台しか同じものを製造していないのである。勿論、車体の色、オプションは別である。世界に於ける最も大量生産を誇る自動車産業でも、この様な個性化、多様化時代に合わせた市場の絞り込みと、その市場に最もアピールする差別化機能の付加に注力しているのである。今世紀の初頭以来、自動車は四気筒のレシプロエンジンに、四輪、ハンドル、ブレーキと基本的機能は不変である。しかし電子化率、プラスチック化率をはじめ。高速安定性能、居住性など著しく向上した。一方「カペラ」と「テルスター」、「ガゼール」と「シルビア」などのように、全く同じ車をネーミングを変え異なった販売チャネルに流すことによって成果を上げている。まさに擬似品質差をネーミングの差別化戦略で補っているように思えるのである。
ひと味違った商品を表現
使い捨てカメラ「うつるんです」砂糖の「ひかえめさん」「気配館-気くばり館」(藤沢の飲料)のようなおとなしいが、「名は体を表す」ものから、「クィントリックス」「ウォークマン」「ファミコン」のようにヒット商品となり、一世を風靡(ふうび)した愛称もある。佃煮の「ごはんですよ」は全国のお母さんが毎日三回は口にするからたまらない。この桃屋の年四千万個、八十億円の売上げはネーミングのおかげである。「言いよい、聞きよい、書きよい、見よい、憶えよい」商標の五原則である。商品のライフサイクルは短命になって来たし、新技術の陳腐化速度は速い。性能、デザインなどが、商品の売行きを左右するのはいうまでもないが、いかに印象づけるネーミングをつけるかは、CI(企業イメージの統一)と共に欠かせない要素である。量から質の時代から、味の時代(ひと味ちがった商品、いいイメージ、感性の商品という意味)といえるのである。
北浦慎三
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