英国の秋は紅葉で美しい、オータム・カラードといわれ、真っ赤に色づく蔦の葉は特に鮮明である。
■中世の城壁都市
日本を出発する時に買った英国国鉄一等席四日間フリー切符で、スコットランドのエディンバラから南下し、ダービーへ向かった。ふと15年前に立寄ったヨークの素晴らしい情景が思い出され、途中下車し、数時間歴史の町を散歩した。
ヨーク(YORK)は紀元71年にローマ人に発見され、アングロサクソン人、バイキングに受け継がれ、急速に発展し、ロンドンに次ぐ第二の都市、そして宗教の北の中心地となった。中世の城塞都市がそのまま残るヨークは、町そのものが生きた博物館。城編(CITY WALL)の延長は約5キロで、周遊するには格好のプロムナードである。
■色濃い宗教画
街中の通りは迷路のように入り組んでおり、ブティック、ブランドショップ、レストラン、パブが所狭しと並びたち、ヨーク大寺院(YORK MINSTER)の門前町の体をなしている。1220年から1470年にかけ250年の付き日を費やして建築された英国最大のゴシック建築の大寺院は繊細かつ威容を誇っている。
ヨーク大寺院に通じるゲート(通りのことをGATEと呼ぶ習慣が残っている)で若い画家が絵筆を振っているのに出会った。きれいにはき清めた石畳に直書きで油絵を画いている。マリアとエンジェルを題材とした聖書物語である。手もとの写真をもとに精密で丹念に描きつづけている。
彼は多分朝から画き出し、夕方ようやく完成し、道ゆく人々に賞賛され、又感銘を与えているのである。
■達成のよろこび
一日で画き上げ、そしていずれ数日後には雑踏の中で踏み消されてしまう運命である。小学生に宗教画を説明したり、色んな質問に応じたりしている。中には小銭を箱に投げ入れて行く者もいる。賽銭箱もちゃんと中央に置いている。画かき本人は多くの大衆の評価を得て自己満足し、制作プロセスでは自己陶酔しているかもしれない。
絵を画くことに集中し、消え去る絵ではあるが、描き上げた達成、完成の喜び。その一瞬に生きる若き無名のアーティストにとっては、道路もしばし厳粛なキャンパスである。
■伝統と革新
日本と英国は共に立憲君主国で又島国である。嗜好性も小型を好み、自動車も右ハンドルで、左側通行、そして伝統を重んずる国と共通点は多い。
又、日本の男性は英国紳士のブランドにあやかり、洋服はバーバリー、アクアスキュータム、ネクタイはダンヒル、カフスはウェッジウッド、陶器はロイヤルダルトン、紅茶はフォートナム&メイソンと現(うつつ)を抜かしている。
しかしかっての英国病はインフレ、失業、ストと斜陽を象徴していた。今、日本企業138社の進出、日本人4万人。産業革命発祥の地に、「新しい製法と新しい労使関係と新しい経営システムを持ち込んだ」と喜ばれているのである。
大阪商工会議所 異業種交流研究会
コーディネーター 北浦慎三
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