2012年8月28日火曜日

個々の活力を集団の力に

1983年(昭和58年) 11月28日(月曜日)

三十年前、友人と氷川丸に乗り、神戸、名古屋、横浜と豪華客船の旅を味わったことがある。その時、一等客室のアメリカ銀行の頭取にプロムナードデッキで聞いた話が思い出される。「バイスプレジデント(副社長だが実質支店長クラス)を任命する前に、ゴルフを共にし、パットの時間いかんで、決断力を見極める。奥さんとお会いして、主人への協力度を確認する」とのことであった。

ドライな業績主義の米国人でさえ「パットの決断力」とか「夫人の協力度」といった業績以外の人格的要素を昇進の条件にしているのである。

集団思考の強い日本の社会では、複雑多様な人間関係の良きさばき手が上司、上役の適格者ではなかろうか。我々は小さい時から人の和、素直な気持ち、気くばりの大切さを教えられ、グループ環境の中で、役割を十分果たす人間として育てられて来た。こうした日本社会の風土では、酒を飲んで上司の"悪口"に花をさかせることも、組織の連帯感を強めるために必要である。上司は、その辺を理解して活用するのが肝心だ。

山本五十六の言葉に「やってみせて、言って聞かせて、させてみて、誉めてやらねば、人は動かじ」がある。いまでも名言だと思う。個人の活力が会社を押し上げ、また一方で会社という集団の力学が個人の能力、個性を大いに培ってゆくものだ。
(慎三)

2012年8月23日木曜日

「殿様商売」から「共感販売」時代へ

1983年(昭和58年) 10月24日(月曜日)

秋の深まりと共に、国際デザインフェスティバル、フォーラム・イン大阪、テクノオオサカ、などのエベントで"大阪築城400年まつり"は、いま最高潮である。

先日リコーの浜田社長にお会いし、こんなお話をお聞きした。「あるお客さまから"リコーもにもゼロックスがあったのですか"と言われてがっかりしましたよ……」と言うことであった。リコピーが湿式コピーの代表で、ゼロックスが乾式コピーの代名詞になってしまっているのである


元来商標として登録され、それが全く一般名詞のように身近に使われているものに、セロテープ、サランラップ、サークライン、キャラバンシューズ、ニクロム、テープコーダー、デコラ、ホッチキス、プラモデル、ポラロイド、ボンド、シャープペンシル、マジックインキ、バーバリー、アスピリン、メンソレータム、ヒロポン、コークからカップヌードルまで実にたくさんある。もし商標のアクアラングを「水中呼吸装置」と言い直したり、タッパーウェアを「食品保存用ポリエチレン製容器」などと書くと、全く違ったニュアンスに感じるほど、愛着を覚えているものである。

会社には、経営理念、企業行動についでこれらの顔とも言える企業表情があるはずだ。消費者やユーザーに知られ、可愛がられ、覚えられる商品名や会社名が浸透し、それが根回し力となり、企業の主体性を培ってゆくのである。

さらのその影響力が、その地に大きく根づくにつれ、日立市、豊田市、キヤノン通り、東洋大橋(広島)など、市や町や通りに顔をのぞかせる。まさに「企業城下町」なのである。単に良いものを安くつくることから、よく知ってもらい、共感を得て、買ってもらう時代になっている。「殿様商売」から「共感販売」の時代へと大きく変化をとげているこの時に、今一度自社の存在理由を問う必要があるのではなかろうか。
(慎三)

2012年8月14日火曜日

楽しい「社内ギネスブック」

1983年(昭和58年) 9月26日(月曜日)

厳しい残暑も終わり、やっと秋らしい気候になって来た。すこし旧聞に属するが、ある工場長がやって来て、「数日前から夜勤者が働いているにもかかわらず、泥棒が入り、ロッカーを荒らされた。昨夜仕かけをして、やっと泥棒を取りおさえた」との報告であった。

同日夕刊の社会面トップ記事に"ロボット会社のロボットが泥棒をつかまえた"と大げさに報道された。これは被害にあった工場のリーダーが、何とか工夫をこらしてつかまえようと、自宅から持ち込んだ道具立てで、回路を組み、見事逮捕ということになった。

当人は直接ロボット製作にたずさわっていた訳ではないが、常に創意工夫に留意し、今回の執念の細工で、泥棒逮捕のヒーローとなったのである。

我社では数年前から「社内ギネスブック」を設けている。たわいもないことだが、社員のコミュニケーションと楽しい建設的競争心を盛り上げようと、試みに始めたのである。カレーの早食い、大声、背筋力、背走、シリンダーの早組みから、スマイルNo1(美人No1ではない)に至るまで、仕事に関係のないものも含め、大いに受けている。

運動会シーズン、体力と技を競うのもよいが、カラオケ、司会のうまい者、キャンプ指導のベテラン、祭太鼓を打てばピカ一、落語が出来る、写真、セールス競争、改善提案No1、とたくさんある。それぞれの特性、努力を皆に知らせる、まさに「叱責より賞揚」の効用が如実に立証されるものである。

また、それらの特技、趣味を社内文化体育活動で大いに生かすもの、仕事に直接反映するもの、「彼にそんな隠し芸が……」と上司から見直されるもの、ヒーローもまた色々である。

もちろん、「スーパーヒーロー」は社長であるが、このような各部門、各分野の「ミニヒーロー」がどんどん出現してはどうか。ギスギスした仕事の中だからこそ、豊かなたのもしいヒーローを待ち望むものである。
(慎三)

2012年8月9日木曜日

活力生む根源は人の組み合わせ

1983年(昭和58年) 8月29日 (月曜日)

先月、第七番目の工場が奈良にできた。薬師寺に近い環境抜群、交通至便の地である。現地の別法人であり、旧来からの社員と、本社から移籍したものとは経歴、育ち、技量、年齢や、それぞれ集団の理念、仕事の手順など異なるものである。幸い旧社員、移籍社員の間に何のトラブルもなくスムーズに新しいチームワークが出来たのはあり難いことである。

三年計画で社内にブラスバンドを育てようと思いつき、今年その第一陣が、吹奏楽日本一となった淀川高校から入社した。お盆の「社内納涼大会」、ビア・パーティーの時に、たった五人の小編成ながら演奏会を開いた。トランペット、トロンボーン、フルート、ホルン、ユーホニウムと、息の合った、金管楽器のみのクィンテット(五重奏)のハーモニーの美しさに酔った。

人それぞれの持ち味、能力をうまく合わせ、組織化するには、その感情や意思を大切にしなければならない。くせ、短所は裏返せば長所と言えるのである。組織活力を生み出す根源は人間同士の組み合わせであり、その組み合わせは性格、学歴、年齢、文科系、理科系、はては血液型にいたるまで、その多様さがやる気と共に妙味を発揮するので有る。

なかんずく上に立つものが、万事に「気くばり」をして、部下の心をつかむことである。うまく行かない時は、責任転嫁したり、環境のせいにせず、自らの人格、ネットワーク力、影響力の不足と自戒すべきである。

法隆寺の棟梁であり、最近薬師寺の金堂、西塔、東塔を建立した西岡常一氏からお聞きした「法隆寺大工に伝わる口伝」に

 搭組みは 木組み
 木組みは きのくせ組み
 木のくせ組みは 人の心組み
 人の心組みは 棟梁の工人への思いやり
 工人の非を責めず、己の不徳を思え

というのがある、課内、部門内、会社の活性化のため、もう一度心くばりをしてみたいものである。

(慎三)

参考

余暇にも望みたい「ゆとりの構造」

1983年(昭和58年) 7月25日(月曜日)

入道雲が夏空にわき出した。いよいよ学校も会社も夏休みシーズン到来である。なかんずく企業の夏季休暇は、七月の終わりから盆に集中し、自動車会社などは十連休の所まである。また海外ではバケーションが長く、商売のネゴシエーションもしばらく途切れることになる。

バケーションとは頭をベーカント(空っぽ)にする意である。日本人は総じてレジャー下手である。せっかくの夏休みも「テレビでゴロ寝」ときめこんでいる。特に中高年世代にはレジャーを罪悪視し、、浪費ときめつけ、上司、同僚に気をくばりながらの遠慮がちな話題でしかない。そういう筆者もいつものことながら、いまだに仕事に追われて、休暇の計画も立てていないのが実情である。

働きバチ、働き中毒と海外からそしられながらも、正月、ゴールデンウィーク、夏休みは”民族大移動”を思わせる旅行の盛況である。レジャー(余暇)には、一、仕事の疲れをいやし、ストレスを解消する。二、スポーツ、けいこごとの様に目的意識をもって、自由時間を使う。三、遊びそのものを自分の趣味として楽しむ、という三つの意義があると思う。

日本人はテンション(緊張)民族と呼ばれているが、遊びにもまた、徹底してカンカンになる。例えば、真夏のツーラウンドゴルフ、徹夜マージャン、決死的ロッククライミング、注意報下のいそ釣り、などである。趣味、スポーツもその道の奥義をを究め、華道、茶道、柔道、剣道からゴルフ道、ジャン道(マージャン)、パチンコ道と、トコトンまでやる。欧米のバケーションの様に、ただぼんやりと海浜ですごす、この「ゆとりの構図」とは異質なものなのである。民族性の違いとはいえ、日本人はレジャーにも常に生産性を考えている様にみえる。

「これはだめ」「あれはいけません」の教育ママゴンによる禁止語が70%を超すと、これを「母源病」といい、受身の「指示待ち人間」ばかりを作ってしまう。余暇利用にも、自主性のある「明日の活力を引き出す」楽しい、安全な、個性あふれるバランスのとれた過ごし方をのぞみたい。
(慎三)

2012年8月8日水曜日

「あき缶公害」とリサイクル

1983年(昭和58年) 6月28日 (火曜日)

梅雨明けも間近い。ギラギラした太陽の下、ビールや清涼飲料水が、急上昇に売り上げを伸ばしている。ビール四社で八三種類の容器がある。ビールもTPO(時・場所・状況)で好みのサイズやタイプで飲み分ける時代だ。

生の樽(たる)型容器、びん、缶、PET(ポリエチレン・テレフタレート樹脂)容器と材質のいかんを問わず、販促のためのファッション化、多様化が進行している。”飲みごろ”の文字が出て来る「冷やしだし」の生ビール。世界最小の「ひとくち」びん生、とっ手付き生樽容器と新製品の続出である。

日本酒は昔から一升びんと決まっており、全国三、三〇〇の醸造家がラベルだけで銘柄を表していた。しかし最近は日本酒もワイン型、ウィスキー型のびんから、陶器、缶、PET、紙と、伝統的容器は減少一途である。それにしょうちゅう、しょうゆ、酢、ぶどう酒、、清涼飲料水、スポーツドリンク、栄養ドリンク、ソース、食用油などがそれぞれ思い思いのワンウェー容器(使い捨て)を使用している。

その中でも年間一二五億個も消費され、焼けも腐りもしないスチール缶、アルミ缶は「あき缶公害」の元凶といわれ、自然破壊、環境汚染をもたらしている。



あき缶をペコンとつぶすプレスとして「カンペコプレス」を開発してすでに十六年になる。資源の有限性、リサイクリング(再利用)をかかげ、全国の観光地などですでに二千数百台が活躍している。

リサイクルは環境汚染の防止、省資源、自治体のゴミ減量、地域経済社会の確立と、世界的にみても天然資源の発掘以上に大きな意義がある。

「容器、包装は沈黙のセールスマン」であるが、”十二単衣(ひとえ)”と言われるような過剰包装やワンウェー容器の投げ捨ては社会問題化している。単にマナーにたよるだけでなく、いかにしてリサイクルという"自然の摂理"を経済システムの中に組み込んでゆくかが今後の課題といえる。

(慎三)

カンペコプレス 発売元 エヌ・イー・ディー・マシナリー株式会社
所在地
 : 
東京都港区浜松町1-12-9 長谷川ビル
TEL
 : 
(03)5472-6411




2012年8月6日月曜日

甘え捨て、創造性を伸ばそう


1983年(昭和58年) 5月23日 (月曜日)

「五月病」、「出社拒否」。そこにはイメージと違った企業の実態、複雑な人間関係などの加部にぶち当たり、たちまち逃げを打つ新入社員の甘えが見える。今まで月謝を払って自由に授業を受けた大学と、厳しい仕事の対価として月給を受け取る拘束社会とのギャップである。

しかし集団社会における適応を早め、組織内規律の重要性を認識し、体得させるため、すでに十七年間「新入社員の野外活動による合宿訓練」を実施している。指導力、協調性、積極性、創造性の養成は企業の基本目的であるが、組織において各人が自由に創造し、個性を発揮するにはルールが必要である。ルールなしに自由奔放にやれば、当人は悦にいっても、まわりは迷惑である。ここに規律が必要である。

動物学者シートンはそのインディアン研究の中に「人の話に割り込むな。人と人の間に割り込むな……」などの「インディアンの掟(おきて)」をあげている。今昔、洋の東西を問わず、掟、エチケット、ルール、規律は必要である。

キャンプファイア。燃えさかる炎とともに、創造性あふれるスタンツ(寸劇)、ゲーム、ソングと、各班の集団のパワーが爆発する。忘れえない感動のひと時である。この能力の引き出し役がカウンセラーである。一年から四、五年ぐらいの先輩でしかない彼らが「同じ屋根の下で、同じ釜の飯を食い、同じ目的を語り合う」三同主義、体験学習のリーダーなのである。「教えることは学ぶことである」の意を体得してもらうことが出来る。

仕事は男にとって人生そのものであるといっても過言ではない。幾多の難関を突破して入った、あこがれの会社である。

「学校を選んでも担任の先生は選べず」「会社を選んでも職場の上司は選べず」である。しかし少なくとも「下手な上司は一生の不作」と言われぬよう、心したいものである。
(慎三)