2009年3月16日月曜日

強制的自己開発とT字型人間

毎日新聞 1981年(昭和56年)8月10日(月曜日)


強制的自己開発とT字型人間

 学生生活から社会生活に入ると、途端にビジネス社会の専門分野の仕事に取り組む事になる。専門知識の習得とその分野の専門家として仕込まれ、いつの間にか「専門バカ」になりかねない。そこで上司は常に「自己啓発」を連発する事になる。
 元来学生時代から勉強が好きでたまらなかった人は比較的少ない。もし好きだったとしても特定の学科のみだったと思う。試験という強制的プロセスがあるから一夜づけの詰め込み学習をする。また成績を公表され恥ずかしい思いをするから、がんばるというサイクルを描くものである。
 T字型人間を目指すT字の縦(スペシャリストの専門知識)は日々の業務を通じて深くつっ込んでゆくが、ともすればT字の横(ゼネラリストとしての幅広い業務知識)はおろそかになりがちである。
 日常のテレビ、新聞を見るのはごく表面的、一般的な情報収集であって、ビジネスに必要な社会常識は情報過多時代の中にあってさえ、だんだん低下していると思われる。
 TSDカード(タイヨー・セルフ・デベロップメント・カード)なるものを考案し、社内の一事業部で試みてみた。縦軸に自己啓発に役立つアイテムを20項目(図書、雑誌、新聞、ラジオ、テレビ、映画、演劇、講習講演会、改善提案、資格取得など)横軸に点数(1-10点)を表し、このマトリックスをいかに決められた期間に多くの点数を記録するかを競わせたものである。三期にわたる実験の結果、飛躍的に点数が上昇し、幅広い知識と盛り上がる自発的意欲が見えて来た。
 「強制的自己啓発」-嫌な語感であるが、自己啓発のプログラム化、スケジュール化のことである。組織内で何らかの示唆、強制力で働いてこそ勉強の動機づけとなり、またそれが次代をになう者へのよりよい伝承義務を果たすことになるのではないか。(慎三)


毎日新聞 1981年(昭和56年)8月10日(月曜日)

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