2012年9月5日水曜日

"ゴールドカラー"時代の躾

昭和62年(1987年) 3月5日 木曜日


躾箸で基本機能
 桜の便りが各地から聞かれる。卒業式、謝恩会、卒業コンパ、入社式、新入社員歓迎パーティーと人前で食事をする機会が多い時期である。その中で気になるのがお箸のもち方で、ぎこちない使い方をみていると美人も台なしである。正しいお箸の使いこなしを幼児期から見につけさせるツールに「躾はし」というのがある。基本機能をしっかりと身につけ、学校給食の習慣と便利さだけでスプーンに依存する安易さから脱却すべきである。

 ME(マイクロエレクトロニクス)化時代、あらゆるものが、自動化されマニュアルにもとづくボタン操作だけになりつつある。デジタル化、ブラックボックス化が急速に進むなかにあって、たしかな手ごたえ、把む、切る、突きさすなどの多様なテクニックをもつお箸の生活技能は東洋人の特質ではないだろうか。

手と目の連動性
 手を器用に使いこなす職業人は長生きする、とよく言われる。文筆家、彫刻家、画家など、好きな事を一生の仕事として選べる人は幸せである。しかし大工、機会組立工、設計者などのように、高度な熟練を要し、そして「手と目と頭の連動性」による器用さを発揮しなければならない仕事もまた同様である。

 先年、摂津市などで開催された「国際技能オリンピック」は十八カ国の参加、三十四種目であった。金メダル十五で韓国が第一位、金メダル十一の日本は二位に凋落である。これはハミヨンテンダ精神(成せばなる)にもとづく韓国のガンバリズムもあるが、ME化時代にあっても在来型技能を中学卒の作業者に徹底して訓練した成果といえる。日本の技能者の高学歴化で、技能オリンピックの出場資格の二十歳では、高校卒業後二年間しかなく、習得不充分のそしりをまぬがれない。

スカイカラー化
 「私作る人」「あなた修理する人」といった、欧米の横断的職能別労組の考え方と異なり、、日本では中小企業の技術者にとどまらず、機械も電気もチェックするのである。また据付調整、試運転、、引渡し、それにマネージメントレベルの検収、現場の長への挨拶までして来る。単能工から多能工へ、そして技術者のニューエンジニア化で、ブルーとホワイトカラーの両方をこなすので「スカイカラー」とでも言うべきである。ME技術と、手作業のような基礎技能、つまり在来技能、その新旧混在型熟練というものが、真の時代に生きる「匠(たくみ)」と言うべきである。

プロのロボット教示
 塗装ロボットにティーチング(教示)した素人の回路でも確かに塗れた。しかしベテラン塗装工が教示すると塗料は五分の一で済んだ。またマルチプルパンチングプレスで異形の大小数十個の穴を開ける。経験者が穴あけ順序を組み立てると、効率よく、歪は全く出なかった。これら勘や経験を体得した高度な熟練技能者は、如何にME化時代になっても貴重な存在である。

 ハイテク時代の頭脳派ビジネスマンを、従来のホワイトカラー、ブルーカラーと区別して「ゴールドカラー」と名付けている。がっちり基本を躾けた輝かしいゴールドカラーを目指そうではないか。

北浦慎三

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