2012年9月25日火曜日

世界の街角で4 オスロ 「北欧のロダン」ビーゲラン


デンマーク、スウェーデン、ノルウェーなど北欧のスカンジナビア諸国は、白夜とフィヨルドの美しい国というイメージが強烈である。しかし長い冬の自然は厳しく、日照時間の短い日々である。

短い夏の長い白夜
 太陽は赤道直下の東南アジアやオセアニア、アフリカでは大地や人々を焼き焦がす「悪魔」でる。しかし陽射しの少ない北欧では、太陽こそ「光と熱の恵みの神」である。
 特にノルウェーは国土の3%しか耕地面積がなく、北部では不毛のツンドラ地帯が広がる。しかし人々は国土を呪ってはいない。短い夏の間に燦々と降り注ぐ日光を素肌にせいいっぱい吸収している風景が街のあちこちで見られる。
 夏至(六月二十二日前後)を中心に夏至祭(MID SUMMER FESTIVAL)が開かれ、人々は短い夏の長い白夜を楽しむ。日の出は三時五十分、日没は二十二時四十五分五時間ほどの夜である。

感動の彫刻公園
 ノルウェーの芸術家ですぐ頭に浮かぶのは、劇作家のイプセン、音楽家のグリーク、画家のムンク、それに彫刻家のビーゲラン(GUSTAV VIGELAND 一八六九~一九四三年)である。
 オスロの町はずれ、フログネル公園はビーゲランのために市が32万平方メートルの広大な敷地を提供、それを彼自身がレイアウトし、半生を捧げて彫刻群のひな型を制作、彫り上げた。作品数百九十二点一大彫刻庭園として市民に残したものである。
 彫刻はブロンズ、御影石、鋳鉄製とさまざまだが、テーマは「人間の一生」に絞っている。刻まれた六百五十人もの人々が死を迎えるまでの「生の一瞬」。思案、歓喜、絶望、怒り、そして孤独と葛藤、あらゆる人生の場面を現代の我々に訴え、メッセージを送る。じっと彫刻の前に佇む時、自己との対決にひしひしと感動が伝わって来るのである。
 地団駄を踏み、泣きわめく元気な子供などを題材とした五十八のブロンズ像で飾られた橋。六人の男が身を屈めながら水盤を支える「人の一生を問いかける噴水」。そして中央に一本の石柱が高くそびえ、百二十一人の老若男女の姿態が御影石に刻み込まれている。
 支え合い、からみ合い、折り重なり、押しのけ合っている姿はまさに人の一生の凝縮された姿そのもので、北欧の夏の、日の光と影のコントラストと共に強い印象と感銘を受けたのである。

小国ながら文化大国
 フログネル公園の南側に、オスロ市がビーゲランのために建てた住居兼アトリエがあり、現在博物館として公開されている。彫刻家は市の援助により制作に没頭でき、彫刻庭園を市に寄贈することになった。こうした知的空間の演出などが感動と潤いの溢れた公園を創り上げたわけだし、小国ながら文化大国といえる所以である。
 今日本の企業、自治体が「文化」づき美術館を続々オープンする一方、世界の美術界が「奇怪」と、まゆをひそめるほどの美術投機市場が我が国で膨らんでいる。“文化滞国”を戒めたいものである。

2012年9月21日金曜日

中小企業こそ「リスク管理」

昭和62年(1987年) 9月5日 (土曜日)



夏休み明け、グループ企業の責任者が、駆け込んで来た。取引先の倒産で、「三千万円の債権が、回収不能、一ヶ月の売上高に相当する」と青くなっている。景気回復期こそ、倒産多発の危険信号である。

災害は忘れた頃に
チェルノブイリ原発事故、三井物産マニラ支店長誘拐事件、三菱銀行三億円強盗事件、西川ふとん事件、そして古くはグリコ森永事件と、ふりかえってみると国も企業も家庭も個人も、様々な事故や事件に遭遇している。台風、雷、地震、豪雨、異常気象などの自然系リスク。盗難、侵入、デマ、パニック、スキャンダル、殺人、心臓病などの人間系リスク。火事、爆発、自動車、海運、航空機事故、公害、労働災害、製品欠陥、コンピュータ犯罪などの人工系リスク。これらを経営要素(人、物、金、情報、戦略)毎に分類してみると百近いアイテムが集まった。我々はリスクの渦中にあり、まさに「危機の時代」に立たされている。諸々の事故を対岸の火災化し、「喉元すぎれば熱さを忘れる」でいいのか、「災害は忘れた頃にやって来る」のである。

リスクの9割は人災
リスクの大部分はヒューマンエラーから生ずる。「人間は失敗をおかす動物である」しかしそのトリガー(引き金)を引かさないために、リスクマネージメント(危機管理)が必要である。リスク管理の最重要課題は倒産と社内犯罪(詐欺、横領、使い込み、持ち逃げ、中傷、誤報など)である。一方消費者から企業が訴えられるケースも多い。即ちPL(製造物賠償責任)とD&OL(重役責任)である。アメリカでは保険危機をひき起こし、PL保険など5・6倍のプレミアムである。

危機回避のシステム
大阪府経営合理化協会では「異業種経営者異脳専門家交流会」の中にリスクマネージメント専門委員会を設け、今年は「リスク管理」ハンドブックのパートⅠとして「倒産」を取り上げている。AI(人工知能)による「エキスパートシステム」(日本生命)や、倒産分岐点活用法などいろいろあるが、このハンドブックでは、中小企業向けの、チェックシート中心の簡便な、診断と対策表でまとめ、会員企業に役立ててもらいたいといっている。これで予兆を知り、予防保全策を打つべきである。

目指せ「リスキアン」
リスク管理とは「経営体の諸活動に及ぼすリスクの悪影響から、最小のコストで、資産、活動、稼働力を保護するため、必要な機能ならびに技法を計画、組織化、スタッフ化、指揮化、統制化するプロセスである」といわれている。アメリカでは七千人からなるリスクマネージャーの団体もある。日本では「水と安全はただ」という安易さから、活動は未だ低調である。
しかしリスクを未然に防ぎ、もし事件や事故が発生した場合、少ない費用で、最も効率よく処置する「リスキアン」(危機管理者をこう呼びたい)がいれば、企業の成長、繁栄のサバイバルに、的確に対処してゆくことが出来るのである。
北浦慎三

2012年9月20日木曜日

世界の街角で3 中国少林寺



中国を初めて訪問して以来、四半世紀以上経った。海外旅行最初の国が中国だったせいか、漢文、漢詩で旧制中学時代鍛えられたせいか、いずれにしても「中国大好きおじさん」である。

あばれ竜「黄河」
 古代文明発祥の地、黄河は世界第四の大河である。三月には大陸からの季節風に乗って黄砂(LOSS)がはるばる日本列島に降りそそぐ、「三寒四温」の言葉通り黄河の上流もすっかり春であった。
 南船北馬とはよく言ったもので華南の揚子江流域は、今も船便が発達し、華北の黄河流域は「あばれ竜」の名の通り、治水に悩み、時には流れを変える黄河をあてにせず、鉄道、自動車、そして今でも馬車が主要交通手段である。
 日本文化の源は中国である。特に漢字は表意文字として、一字一字固有の意味をもっている。日本の当用漢字は約三千字だが、中国古来の漢字は約五万字である。勿論今は簡略文字が主流をしめ、画数の多い漢字の冠や偏をとったり行書、草書から略字化したりで難読である。
中国ではどんな地方へ行っても書家、墨絵画家が幅をきかせている。そして軸の文字はすべて伝統的漢字で書かれている。社会主義国家の中央統制教育も「書」に関する限り芸術として認められ、統制外なのであろう。
 また文房四宝といわれる硯、墨、筆、紙は文房具中四つの宝として各所で売られ、日本へのみやげとしては特に珍重されている。

少林寺拳法の源
 香川県多度津にある少林寺本山の正月鏡開きに招かれ、少林寺拳法の神髄に接したことがある。以来一度中国華南省の嵩山少林寺を訪れたいと思っていたが、その願いがかなった。
 約千四百年前、当時の首都洛陽近くの嵩山少林寺に住した天竺僧菩提達磨が霊肉一如の実在である人間の本体を究め、霊のすみかである肉体を調御して、病まず屈せずの金剛身を錬成させるため編み出した拳法である。拳禅一如の修行に励む者は日本だけでも四十万人といわれている。

墨絵の為書
 嵩山少林寺では我々のために、きびきびとした激しい拳法の模範演技を見せてくれた。
寺内の売店では僧の描いた拳法のダイナミックな墨絵が数多く売られている。友人の旭電機の鬼束社長は少林寺拳法の顧問である。何かいい記念品をと思っていたが、私よりの送り主の名前と、鬼束社長への「為書」を記してもらうよう、絵書きの僧に依頼した。快くその意を解して墨書してくれた。
 帰国後早速差し上げたが、その躍動的な絵と共に、わざわざ自分の名前を為書してあることに大変喜ばれ、送った側も、予想外の感激であった。それにしても中国人は貧しいながらも書をたしなみ、絵を愛し、豊かな感性をもった人々が多い。そして中国人はみんな書家、墨絵画家のように思えるのである。


2012年9月14日金曜日

NICSはライバルかパートナーか


昭和62年(1987)年 8月5日 水曜日

 吹田の中小企業の(株)旭電機製作所は電子機器メーカーだが、最近商品化戦略の多角化の一環として、台湾から幼児用モトクロス型自転車を輸入した。国産品に比べ半値という安さもあって、すでに三千台以上を売りさばいている。川鉄商事が韓国製の木工家具を、いすずがトラック用バッテリーを、トヨタ車体が台湾からプレス部品を購入、などの報道は枚挙にいとまがない。

NICSから「開発輸入」
 円高、貿易摩擦、それに伴う政府の輸入促進策を背景に百貨店、スーパーなど流通業界でアジアNICS(新工業国群)からの直接輸入(開発輸入)が増えている。海外商品共同仕入れ会社「アイク」や、タイ製の商品を扱う専門店「タイホニック・タイランド」(そごう系全国十三店)などアジアで“ヒット商品”探しに懸命である。日本人の胴長短足の体型、甲高、幅広の足型、色、柄等の好みなど、「日本向けはめんどうだ」と、敬遠したり、日本を特殊な市場とする見方も根強い。それが「非関税障壁」とも受取られかねない。しかし、手間をかける日本製の良さがようやく理解され、「日本の業者と付き合うことで、商品開発のノウハウを吸収し、力をつけた」と喜んでいる向きも多い。

相互補完の輸入戦略
 地域的に見ると、アメリカ/中南米、欧州/中近東アフリカ、日本/東南アジアがその地域特性から来る相互補完関係。産業特性、技術特性を生かした分業体制が今後のグローバリゼーション(世界化)に非常に重要である。日本とNICS(韓国、台湾、ホンコン、シンガポール)、ASEAN-4(フィリピン、マレーシア、タイ、インドネシア)は先進国、中進国、途上国という風に雁行的経済発展をとげて来た。それはハード面では、繊維、軽工業品→鉄工、造船→自動車、電子機器とグレードアップし、日本を追い上げ、遂にライバル視するのである。一方ソフト面では東南アジアの言語圏、文化圏から来る、ソフトの文化性、例えばワープロの漢字など、域内では普遍性、共通性があり、有利に相互補完の実をあげることができる。

ローカルから国際ルールへ
 特許、商標などの知的所有権保護の強化が叫ばれている。模倣による技術習得というNICSの過去のパターンから、独自の創造性豊かな商品開発が望まれる。国内のローカルルールから、いち早く国際的尺度、規範で物事を判断すべきである。もはや、半導体、ファッション製品をはじめ単なる「国産品」ではダメで、真に世界に通用し、探し求められる「国際品」でなければならない。又アジアNICSが、ただ日本企業の垂直下請的、部品の供給基地化したり、地場産業による軽工業性雑貨製品の輸出に終始することなく、水平的補完契約の立場で、良きパートナーとしての務めを果す必要がある。今まで、二国間での競争や協調関係中心だったが、いよいよ両国企業が協力して第三国で新しいビジネスを始める時代が到来したのである。
北浦慎三

2012年9月13日木曜日

世界の街角で2 ヨーク “道路は厳粛なキャンバス”


英国の秋は紅葉で美しい、オータム・カラードといわれ、真っ赤に色づく蔦の葉は特に鮮明である。



■中世の城壁都市
日本を出発する時に買った英国国鉄一等席四日間フリー切符で、スコットランドのエディンバラから南下し、ダービーへ向かった。ふと15年前に立寄ったヨークの素晴らしい情景が思い出され、途中下車し、数時間歴史の町を散歩した。
 ヨーク(YORK)は紀元71年にローマ人に発見され、アングロサクソン人、バイキングに受け継がれ、急速に発展し、ロンドンに次ぐ第二の都市、そして宗教の北の中心地となった。中世の城塞都市がそのまま残るヨークは、町そのものが生きた博物館。城編(CITY WALL)の延長は約5キロで、周遊するには格好のプロムナードである。

■色濃い宗教画
 街中の通りは迷路のように入り組んでおり、ブティック、ブランドショップ、レストラン、パブが所狭しと並びたち、ヨーク大寺院(YORK MINSTER)の門前町の体をなしている。1220年から1470年にかけ250年の付き日を費やして建築された英国最大のゴシック建築の大寺院は繊細かつ威容を誇っている。
 ヨーク大寺院に通じるゲート(通りのことをGATEと呼ぶ習慣が残っている)で若い画家が絵筆を振っているのに出会った。きれいにはき清めた石畳に直書きで油絵を画いている。マリアとエンジェルを題材とした聖書物語である。手もとの写真をもとに精密で丹念に描きつづけている。
 彼は多分朝から画き出し、夕方ようやく完成し、道ゆく人々に賞賛され、又感銘を与えているのである。

■達成のよろこび
一日で画き上げ、そしていずれ数日後には雑踏の中で踏み消されてしまう運命である。小学生に宗教画を説明したり、色んな質問に応じたりしている。中には小銭を箱に投げ入れて行く者もいる。賽銭箱もちゃんと中央に置いている。画かき本人は多くの大衆の評価を得て自己満足し、制作プロセスでは自己陶酔しているかもしれない。
 絵を画くことに集中し、消え去る絵ではあるが、描き上げた達成、完成の喜び。その一瞬に生きる若き無名のアーティストにとっては、道路もしばし厳粛なキャンパスである。

■伝統と革新
 日本と英国は共に立憲君主国で又島国である。嗜好性も小型を好み、自動車も右ハンドルで、左側通行、そして伝統を重んずる国と共通点は多い。
 又、日本の男性は英国紳士のブランドにあやかり、洋服はバーバリー、アクアスキュータム、ネクタイはダンヒル、カフスはウェッジウッド、陶器はロイヤルダルトン、紅茶はフォートナム&メイソンと現(うつつ)を抜かしている。
 しかしかっての英国病はインフレ、失業、ストと斜陽を象徴していた。今、日本企業138社の進出、日本人4万人。産業革命発祥の地に、「新しい製法と新しい労使関係と新しい経営システムを持ち込んだ」と喜ばれているのである。

大阪商工会議所 異業種交流研究会
コーディネーター 北浦慎三



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2012年9月11日火曜日

擬似品質差ネーミングで演出


昭和62年(1987年) 7月5日 日曜日

 うっとおしい梅雨明けも近い、五月下旬から七月中旬まで、「梅雨の前ぶれ」「走り梅雨」、そして「梅雨寒む」など、乾季に対する雨期の言葉である。春夏秋冬の四季に「梅雨季」を入れて、「五季」とすると、人間の体の一年からすれば、健康留意のためのこの新語の
語気はさわやかである。言葉は生き物である。特に商品のネーミングはそのイメージを決定ずけるものである。

面白いから買う
 「自動製パン器」が成熟した調理家電市場で、自動炊飯器以来の話題商品になっている。先発の松下は「自動ホームベーカリー」、船井電機は「らくらくパンだ」。つづいて参入する東芝は「パンDEおはよう」、日立は「焼きたて通り」、三洋は「1・2のパン」と、手軽で親しみを感じるネーミングで乗り込む。各社は勿論、品質、性能、価格で他社にない差別化戦略で臨んでいるのだが、究極、余程の特許などの技術的格差でもない限り、自動車、家電などの先発商品群に見られるように、似たりよったりになってしまうのである。あとは消費者の感性、購買動機にどうアピールするかでる。面白いから、楽しいから買う心理動向を見逃せないのである。

新製品はマイナーチェンジの繰り返し
 自動車メーカー十一社で毎日三千種の商品を出している。一種類たったの十台しか同じものを製造していないのである。勿論、車体の色、オプションは別である。世界に於ける最も大量生産を誇る自動車産業でも、この様な個性化、多様化時代に合わせた市場の絞り込みと、その市場に最もアピールする差別化機能の付加に注力しているのである。今世紀の初頭以来、自動車は四気筒のレシプロエンジンに、四輪、ハンドル、ブレーキと基本的機能は不変である。しかし電子化率、プラスチック化率をはじめ。高速安定性能、居住性など著しく向上した。一方「カペラ」と「テルスター」、「ガゼール」と「シルビア」などのように、全く同じ車をネーミングを変え異なった販売チャネルに流すことによって成果を上げている。まさに擬似品質差をネーミングの差別化戦略で補っているように思えるのである。

ひと味違った商品を表現
 使い捨てカメラ「うつるんです」砂糖の「ひかえめさん」「気配館-気くばり館」(藤沢の飲料)のようなおとなしいが、「名は体を表す」ものから、「クィントリックス」「ウォークマン」「ファミコン」のようにヒット商品となり、一世を風靡(ふうび)した愛称もある。佃煮の「ごはんですよ」は全国のお母さんが毎日三回は口にするからたまらない。この桃屋の年四千万個、八十億円の売上げはネーミングのおかげである。「言いよい、聞きよい、書きよい、見よい、憶えよい」商標の五原則である。商品のライフサイクルは短命になって来たし、新技術の陳腐化速度は速い。性能、デザインなどが、商品の売行きを左右するのはいうまでもないが、いかに印象づけるネーミングをつけるかは、CI(企業イメージの統一)と共に欠かせない要素である。量から質の時代から、味の時代(ひと味ちがった商品、いいイメージ、感性の商品という意味)といえるのである。

北浦慎三

2012年9月10日月曜日

世界の街角で1 「カレル橋の画家」

チェコスロバキア共和国といえば、自動車のシュコダ(Skoda)、プルゼニュ(Plzen)のビール、ボヘミアのガラス器が知られている。又、作曲家のドボルザークやスメタナを生んだ音楽の国である。初めて訪れた首都プラハは中部ヨーロッパ最古の都市の一つであり、九世紀から分化の中心地であった。現在も市の中心部には、十一~十三世紀のロマネスク建築、十三~十五世紀のゴシック建築、十六世紀のルネサンス建築とあらゆる建築の見本が見られ、建築芸術の博物館といえるような町で、市内には五百以上の尖塔が見られる。

又、美術では世界で有名なプラハ国立美術館があり、フランス美術部では、ルソー、マネ、モネ、ゴッホ、セザンヌ、ピサロ、ピカソ、ブラック、シャガールの力作があり、西欧古美術収集部ではブルーゲル、デューラー、レンブラント、ルーベンス、ゴヤなど著名な作品が目をひく。

“中世の宝石”と言われ、中世以来のたたずまいを今日に残しているプラハには画家たちの群がるカレル橋(Karluv most)という美しい有名な橋がある。ブルタバ川(モルダウ川)に架かる五百米の石橋は中欧で最古のもので、一三五七年教会建築家ペトル・パルレージの作品である。橋の両端にはゴシック様式の門がつき、橋の両側の欄干には、聖書に題材を求めた彫刻が十五体ずつ、計三十体飾られている。夕陽にシルエットとなって浮かび上がる景色はプラハで最も美しいパノラマである。

春の陽射しをあび、旧市外とプラハ城を行き来する通行人は絶えることなく、カレル橋は常に賑わっている。油絵、水彩画、似顔絵、ハサミによる影絵と、画家達が何十人と製作を楽しんでいる。カレル橋の聖者像を一通り鑑賞した私も、つい好きな絵に見入っていた。私が「今かいている聖者は何というの」“聖ルイトガルダと聖アダルベルトさ”「よく描けている…ハウマッチ」“日本円で三万円”・ポケットからお札を取り出し、「一万円しか持ち合わせていない、これでどうだ……」“NO”ネゴは失敗である。「仕方ない散歩して来るよ。」橋上では何組かのバンドが色んな音楽を奏でている、それに耳を傾けながらカレル橋を前景にプラハ城を眺めていると、カレル橋を舞台にした大ページェントである。

一巡して再び画家の前を通ると、“描き上げたよ、完成だ。遠い日本から来たんだね…一万円でOKだ…”交渉成立である。画家の名はクリスト・ゲルゴフ(CHRISTO GERGOV)個展用の自画像ポスターもくれた。横にいた弟子のユーゴー人が“彼は新進作家で有名な画家だ”といいながら、未だ濡れているキャンパスを段ボールで絵具がつかないようにパッケージしてくれた。力づよいタッチの風景画を手にし、満たされた一刻であった。

東欧の社会主義は音を立てて崩壊した。バーツラフ広場の国民博物館の前を通りかかると、折から東京の「わだち合唱団」とチェコの「CKD合唱団」の共演で「春のうららの隅田川…」が流れて来た、まさに新鮮な驚きである。長い圧制下のプラハにほんとの春がやって来たのである。

大阪商工会議所 異業種交流研究会
コーディネーター 北浦 慎三











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カレル橋の画像(Google画像検索結果)

ハイテクのハイ利用で廃テク防止


昭和62年(1987年) 6月5日 金曜日


 国際経済摩擦の激化に伴って、わが国の企業は国際協調型への構造変換を強く求められている。激しい環境変化に対応して、企業規模の大小にかかわらず、自らの進路を点検、新たな起動を敷設する必要に迫られているわけで、とくにNICSの追い上げなどもあって、中小企業での緊急度は強いといえる。

陳腐化速いハイテク
 ハイテク時代の特長は①変化のテンポが速い②原理、方法が変わる③無関係の分野もまきこまれる④失うもの、得るもの両方がある-といわれている。特に半導体では、超LSIは二十年前の真空管の十万倍の信頼性、それに反比例して大きさは十万分の一、価格も十万分の一である。「五年経てばクギと同じ値段」といわれるゆえんである。また、指数関数的向上をしているVLSI(半導体集積回路)はその性能や集積度が、大体二年おきに倍増している。新製品の陳腐化速度はすさまじい勢いで、「廃テク商品」化しているのである。

ハイテク御三家の利用
 ハイテクの注目株は、マイクロエレクトロニクス(ME)、新素材、バイオテクノロジーで「ハイテク御三家」とさえいわれる、しかし世間でさわがれるほど成長性、採算性は良くない。MEの代表格の産業用ロボットも、昨年二千七百億円で、みそ産業の三千億円に及ばない。みそもロボットも一緒にする訳ではないが、IC産業の一兆七千億円はきもの産業の二兆円より少なく、新素材の七千億円は食パン産業の八千億円には満たない。しかしハイテクを利用し、自社の製品やプロセスに取りこむ「ハイテク化商品」、特に電子デバイスを組みこんだメカトロニクスの市場規模は二十五兆円で、今後も成長を約束される市場である。
 
組み合わせ技術と使う技術
 古くは消しゴム付き鉛筆から「ラジカセ」「バルセットシリンダ」(切換バルブをつけたアクチュエータ))など組合せ商品は枚挙にいとまがない。「元気の出る針金」と、マスコミをわかせた「形状記憶合金」も二十五度以上になると、記憶したふっくらとした胸元を再現するブラジャーで、下着に革新をもたらし、二百万着を売るヒット商品となった。ハイテクを「作る技術」よりも「使う技術」、即ちソフトウェアこそが、中小企業にとって有効に作用するのである。

単体生産からシステム化へ
 私はかねがね「付加価値生産性は部品点数に比例する」といっている。同じアルミ製品でも、サッシの生産より航空機が有利に決まっている。これから水平的国際協業時代に突入すると、部品点数五千点以上のミシン、トランジスタラジオなどは中進国へ移し、日本はもっぱら五千点以上のカラーテレビ、VTR、三万点以上の自動車、なかんずく五万点以上の中・高級車を生産することに専念せざるをえないのである。また、単品即ちコンポーネント・マシンを作るステップから、ソフト、ノウハウなどの知的付加価値を装備した、大型コンピュータ(二十万点)、人工衛星(五百万点)などの高次なシステム商品へとシフトする必要を痛感するのである。
北浦慎三

2012年9月7日金曜日

ストレス社会こそ「ゆとりの構造」


昭和62年(1987年) 5月5日 火曜日



 春のゴールデンウィークの連休明けである。陽焼けした若者たちの歓声があちらこちで聞こえる。

小型、こま切れ的レジャー
 余暇開発センターの「レジャー白書」によれば、男性の場合、今後やってみたい余暇活動の第一位は避暑、避寒、温泉などの国内観光で、七三%。第二位がドライブ五四%、第三位外食五〇%、第四位海外旅行四八%、である。しかし「時間的余裕がない」(四〇%)や「経済的余裕がない」(二五%)で、宿泊観光旅行に行けなかった理由としている。
 中小企業の福利厚生施策の中で、断然人気の高いのが、この旅行で、他のレジャーを圧倒している。ところで、日本人のレジャー活動は小型、こま切れ的で、多彩と言えるが、欧米に比して、日常的、都会的である。観光レジャーにも共通しており、最近はゴルフ、テニス、スキー客が増えているが、遊びそのものに余裕がなさすぎる感がある。

余暇にも生産性?
 働きバチ、ワーカーホリック(仕事中毒)と海外から日本のビジネスマンは避難されながらも、ゴールデンウィーク、夏休み、正月はまさに“民族大移動”の旅行の集中するシーズンである。欧米では長期休暇は常識化している。バケーション、即ち頭をベーカント(空っぽ)にして、短くて一週間、長くなると一ヶ月滞在の、滞在型リゾートが定着している。交替で休暇を取ることを法制化している国さえある。日本では人が働いている時に、自分だけ休暇をとること罪悪視し、レジャーを浪費ときめつけ、上司、同僚、部下に気を配りながら、遠慮して休暇を取らないのである。総じて「レジャー下手」「遊び下手」である。民族性の違いとはいえ、明日の英気を養うという点では、レジャーにも生産性があるといえるのではなかろうか。

ストレス社会 心はプアー
 全民労協の調査では、毎日の仕事の中で、「精神的にきつい」「運動、レクリエーションのゆとりがない」につづいて「人間関係からくるストレス」をあげている。体をあまり動かさず、頭だけを使うことが多く、そのうえ、食べ物豊富で、過食。成人病の増加が問題である。自覚症状がありながら、責任感と「出世の妨げ」と、自ら病気をひた隠しにして、無理をし、結果として、会社に迷惑をかけることに相成るのである。
 仕事不安(失業や職場への不適応)、家庭不安(子供の非行や進学難)、地域不安(近所に知らない人が増える)、健康不安など基本的な不安は各世代でかなり共通しているが、二十代は仲間集団内の人間関係に生き甲斐を求めながらも、人間関係の不安で苦慮しているのが目立つのである。ハードウェア即ち機械、設備たいかに立派でも、それを運転するソフト即ち管理、運営が貧弱ではダメである。そんな状態を「ハードリッチ ソフトプアー」と呼んでいる。「物はリッチでもストレス社会で、心はプアー」という感を深くするのである。そんな激変環境にこそ、余暇を見出す「ゆとりの構造」が余計に必要と思われる。
北浦慎三

2012年9月6日木曜日

モノ、人ともに”心の国際化”

昭和62年(1987年) 4月5日 日曜日

 昨年正月アメリカのミネアポリスからDATA CONTROL社の役員の娘さん、という二十歳の女子大生が我が家にやって来た。息子ばかり三人の中に降って涌いたような「ホームステイ」の国際化家庭版の一ヶ月であった。私に「夜遅く帰宅し、東奔西走の毎日は、うちのパパと一緒だ」と笑いこけていた。


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 中小企業の”人材輸出”
 今年早々、かって仲人をした、ある中小企業に勤務する四十五歳の工場の係長が、退職の挨拶にやって来た。ホンコンのプラスチック会社の役員として、三年契約で新天地に赴任するという。幸い中小企業診断士の資格を早くから取得しており、百万円の手取り月収、家つき、車つき、月一度の日本への出張つき、という恵まれた条件である。単なる製品にまつわる固有技術だけでなく、生産技術、管理技術のテクノロジートランスファ(技術移転)は、NICS(新興工業諸国)に対して、一匹狼の力とはいえ、"人材輸出"の懸橋といえるのではなかろうか。

日本的経営の理解
 中国、インドネシア、マレーシア、フィリピン、スリランカ、ネパール、メキシコ、ペルー、ケニアなどから、今年も三月上旬、国際協力事業団の一行十二名が「中小企業研修団」として我が社にやって来た。これは我が社の技術協力計画にもとづき、約三ヶ月間各地で研修するものである。工場見学の後、数時間のディスカッションをした。日本的な経営のバックグラウンドである、義理、人情、稟議書、根回し、行政指導、提案、改善、腹芸など多様な価値観はなかなか理解しにくいものであった。一方、職場の身近なラジオ体操、朝礼、給食、制服のように、集団主義、無層社会の象徴的行動は良く理解できたようである。
 特に「日本の中小企業経営の特長」として欧米のレイオフ(一時解雇)制度に対して、安定雇用性(終身雇用制ではない)、実力主義を加味した年功序列制、職種別労組に対して、企業別労組など要約して説明した。

日本企業の国際化
 このように家庭でも職場でも外国人との接触は多くなって来た。昨年の日本からの海外渡航者は約五百万人である。又、企業の海外進出に伴う「長期滞在者」は約二十四万人にのぼっている。経済力の発展に伴って、モノだけでなく、人の面でも国際化の時代を迎えている。

日本企業の国際化進展の段階は①輸出中心(モノ)②現地化(モノ+カネ)③国際化(モノ・カネ+ヒト)④多国籍化(モノ・カネ+ヒト+情報)⑤グローバル化(モノ・カネ・ヒト・情報+企業分化)だといわれている。
 これからの日本企業は中小企業といえども、海外進出にあたって経営理念や企業文化を完全に自分のものにしたうえで、現地に受け入れられる内容に翻訳し、現地社会の人々とコミュニケートできる真の国際人の育成が重要である。”郷に入れば郷に従え”である。異国に骨を埋める覚悟で、異文化を素直に理解できるような教育、情報の提供を通じて、モノ、ヒトと同時に”心の国際化”の時代を築き上げるべきである。
北浦慎三

2012年9月5日水曜日

"ゴールドカラー"時代の躾

昭和62年(1987年) 3月5日 木曜日


躾箸で基本機能
 桜の便りが各地から聞かれる。卒業式、謝恩会、卒業コンパ、入社式、新入社員歓迎パーティーと人前で食事をする機会が多い時期である。その中で気になるのがお箸のもち方で、ぎこちない使い方をみていると美人も台なしである。正しいお箸の使いこなしを幼児期から見につけさせるツールに「躾はし」というのがある。基本機能をしっかりと身につけ、学校給食の習慣と便利さだけでスプーンに依存する安易さから脱却すべきである。

 ME(マイクロエレクトロニクス)化時代、あらゆるものが、自動化されマニュアルにもとづくボタン操作だけになりつつある。デジタル化、ブラックボックス化が急速に進むなかにあって、たしかな手ごたえ、把む、切る、突きさすなどの多様なテクニックをもつお箸の生活技能は東洋人の特質ではないだろうか。

手と目の連動性
 手を器用に使いこなす職業人は長生きする、とよく言われる。文筆家、彫刻家、画家など、好きな事を一生の仕事として選べる人は幸せである。しかし大工、機会組立工、設計者などのように、高度な熟練を要し、そして「手と目と頭の連動性」による器用さを発揮しなければならない仕事もまた同様である。

 先年、摂津市などで開催された「国際技能オリンピック」は十八カ国の参加、三十四種目であった。金メダル十五で韓国が第一位、金メダル十一の日本は二位に凋落である。これはハミヨンテンダ精神(成せばなる)にもとづく韓国のガンバリズムもあるが、ME化時代にあっても在来型技能を中学卒の作業者に徹底して訓練した成果といえる。日本の技能者の高学歴化で、技能オリンピックの出場資格の二十歳では、高校卒業後二年間しかなく、習得不充分のそしりをまぬがれない。

スカイカラー化
 「私作る人」「あなた修理する人」といった、欧米の横断的職能別労組の考え方と異なり、、日本では中小企業の技術者にとどまらず、機械も電気もチェックするのである。また据付調整、試運転、、引渡し、それにマネージメントレベルの検収、現場の長への挨拶までして来る。単能工から多能工へ、そして技術者のニューエンジニア化で、ブルーとホワイトカラーの両方をこなすので「スカイカラー」とでも言うべきである。ME技術と、手作業のような基礎技能、つまり在来技能、その新旧混在型熟練というものが、真の時代に生きる「匠(たくみ)」と言うべきである。

プロのロボット教示
 塗装ロボットにティーチング(教示)した素人の回路でも確かに塗れた。しかしベテラン塗装工が教示すると塗料は五分の一で済んだ。またマルチプルパンチングプレスで異形の大小数十個の穴を開ける。経験者が穴あけ順序を組み立てると、効率よく、歪は全く出なかった。これら勘や経験を体得した高度な熟練技能者は、如何にME化時代になっても貴重な存在である。

 ハイテク時代の頭脳派ビジネスマンを、従来のホワイトカラー、ブルーカラーと区別して「ゴールドカラー」と名付けている。がっちり基本を躾けた輝かしいゴールドカラーを目指そうではないか。

北浦慎三

2012年9月4日火曜日

"チョコロボ"で愛のメッセージ

昭和62年(1987年) 2月5日 木曜日


「円高激震」下、厳冬の産業界である。その中にあって、今年もバレンタインデーがやって来る。二月十四日、キリスト教で、殉教した聖バレンタインの祭日。女性が男性に愛の告白ができる日とされている。6ケ。七ケ。九ケにプラス花二鉢と、三年連続上昇の私宛の「義理チョコ」も、プレゼントされて腹の立つものではない。心ひそかに期待に胸ふくらませ、こっそりと自分の机の引出しをあける楽しい日なのである。去年は、「部長」「課長」「係長」の表札ふうのチョコレートが良く売れたようである。「部下」の女子社員が「部長」と書いたチョコを課長の引出しに、しのばせる。翌日それを開いてニンマリする課長氏。その光景を遠目に、それとなく観察する当の贈り主たち。そこに男性の昇進願望とともに、女性社員とのほのぼのとしたコミュニケーションが窺える。

食品業界の売上げ総額二十七兆円、うち菓子業界二兆三千億円、うちチョコレート業界三千四百億円位とされている。この「バレンタイン歳時」の売上げは、年間販売高の10%以上で、日本人に直接関係のない宗教的行事のコマーシャリズムと一笑に付せない程のマーケットになっている。

OA、FA、SA、HA、と事務所、向上、商店、家庭にロボットが入り込んでゆく。しかし店員、販売面の自動化、ストアオートメーション(SA)については、機械、ロボットで代替できる部分は大いに導入するべきである。人間にしかできないふれあい、サービス、不測j事態の判断、意思決定のみを担当することにより、顧客への満足が増大するはずである。ハイテク時代こそ、よりハイ・ヒューマン・タッチが望まれるところである。

「ロボットが刻む愛の言葉」ともてはやされ、キャラクターチョコレートづくりに精出した「チョコロボ」が消費者の多様生産システムとして活躍している。「好きやねん」「私の愛うけとって」「パパ好きよ」「合格祈ってます」など、あらかじめティーチングしておいた十数種のーメッセージと、宛名、贈り主をハート型のチョコの上に、ロボットが黙々と書いてゆく。

食べるためのお菓子(ハードウェア)を送るだけではなく、心にふれる感性豊かなメッセージ(ソフトウェア)をプレゼントする時代である。二億六千万円と昨年のチョコ売上日本一を記録したキタの阪神百貨店の売り場の話では、チョコの種類は三千種、食べてもらうのは半分位で、情報伝達に価値があるといっている。

殆どのロボットが、そうであるように、発売当初から三分の一位に価格が引き下げられている。ロボット単体の導入から、タンク、圧送ポンプ、保温装置、データ入力装置などの周辺装置をすべてセットし、応用ソフトつきの一貫した装置として、ユーザーニーズに対応している。個性化、ソフト化時代の小売り、店頭の自動化、消費者と「プッツン」ではなく、マン・マシンに心を交わし合うメッセージであってほしいものである。
(太陽鉄工常務・日本産業用ロボット工業会関西支部長)
北浦慎三